水曜日の男

夜が来て、キスをして、貪り合って、射精して、終電に間に合う様に急いでシャワーを浴びて帰って行く、僕たちはそんな関係。

「お前だけ」
嘘つきな唇。
「愛してる」
嘘つきな言葉。

貴方はとても狡い人だ。

「お前が1番だよ」
そんな解りやすい嘘にでも騙されてしまう僕は貴方と言う檻に捕まって、もうそこから出られない。
1人で待つ狭くて広いこの部屋には貴方の残像が住みついているというのに、ドアを叩くのはいつも決まって水曜日だけ。

「ごめんな、この曜日しか残業を言い訳に出来ないんだ」
「うん・・・解ってる・・・」
理解のある振りをして、僕も嘘つき。
嘘つき同士丁度いいじゃないか。

「あ・・・っ」
身体を愛撫する指先が好き。
「んん・・・」
包まれ、こじ開けられ、絡め取られる紅い舌が好き。
汗の匂いも、僕に向けて放たれる劣情の匂いも好き。
「――― くっ」
貴方のイク時の声が堪らなく好き。
「ああぁぁっ」
乱されて、喘がされて、扱かれて、突き抜かれて、中はゴムもしてくれない貴方の吐きだした精液で溢れてる。

「こら ダメだって言ってるじゃないか」
「・・・ごめんなさい・・・」
僕には紅く痛い痣を遠慮なく付けまくるのに、付けようとすると慌てて身体を押しのける。
まるで僕の存在を否定するかのように・・・。

貴方は勝手で酷い人だ。
僕の都合は考えてなんかくれない、冷たくて不誠実な人。
なのに・・・・・・何故こんなにも貴方が必要なのだろう?

淋しくて、孤独で、泣きたくなるほどの夜を過ごして何度も離れようと思ったのに、もう駄目だ。
貴方がいなければ呼吸もすることが出来ずに苦しくて死んでしまう。
僕の空気、酸素。 全て。

1度・・・1度だけでいい・・・腕に抱かれながら一緒に朝を迎えたいなんて言うのは我が儘なのだろうか?
そんなこと、不可能だって解っているけれど・・・。

貴方にとって僕は何?
丁のいい欲望のはけ口? 聞き分けのいい愛人? 
心は家に置いてきて、ここに持ち込むのはありふれた愛の囁きと熱い身体。
それでもいい、と言った僕。
欲しいのは貴方。

囁きが欲しい、身体が欲しい、でも1番欲しいものは絶対にくれない。
僕のものにはならない。 ないものねだり。
気付いてる?
僕は貴方のスーツ姿と裸しか見た事がないんだよ。
だって会社帰りに立ち寄るだけだもの。 笑えるだろう?
もう1年も経つのに下の名前、知らないんだ。 名刺すらくれない。
訊いても「俺たちにそんなもの必要ないだろう?」ってさ。
そんなに僕は信用がないんだろうか。
心配なんかしなくても貴方が困る事をするわけがないのに・・・。

そんな希薄な関係が哀しいだけ。
もし明日貴方が死んでも僕は葬式にも行けないんだ。
直ぐに後を追うから別にいいけど。
僕が死んだら貴方は葬式に来てくれるのだろうか? ・・・多分来ないね・・・。
そうして僕を忘れ、子供の成長を見守るいい父親になるのだろう。

解放して欲しい・・・。
憎めるほどの酷い言葉と態度で僕を捨てて。
でなければ僕はいつか貴方を自分だけのものにしたくて殺してしまう。
その嘘にまみれた優しい瞳が僕を誤解させているのだから。
ねぇ・・・早くしないと実行に移しちゃうよ・・・・・・。


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またもやダークです。 短編だとダークが描きやすいなぁ。 苦手な方、すいません。
名前を一切出さないやりかた、私は好きなのですが読んでる側から見るとどうなんだろう;
「貴方」にはもしかしたら月曜日から金曜日まで愛人がいるかもしれないですなぁ。(見もフタもない;) 
(20050217)