好きが違う

「小野は可愛いなあ。」
とか
「小野〜、好きだぜ〜。」
とか僕は永井先輩に部活に入った時からずっと言われ続けていた。
僕は身長が同じ年齢の他の人たちに比べて10センチは小さくて、声変わりするのだってみんなより遅かった。
しかもあんまり低くならずにクラスでも一人だけ自分が浮いてるような気がして凄くいやだった。
永井先輩は初めて会った時、声もかけずにいきなり頭を撫でてきて何て失礼な人だと思った。
彼の身長は180センチは軽く超えていて、だから僕が並ぶと先輩の胸とご対面だ。
体格だって僕がもやしみたいなのに比べて、先輩は筋肉が均整にとれていて、「ああ、きっともてるんだろうなあ。」という体つきをしていて・・・要するに僕の理想がまさに永井先輩みたいな人なんだ。
背も小さくて、声も人より高くて、筋肉も大して付いてない僕は必然的に中学の時から、からかいの格好の餌食となっていた。
もう、慣れたけれどね。
部活も鉄道クラブにするか陸上部にするか迷ったあげく少しでも体力を付けたいと思い、陸上部に入ったんだ。
「お前、男だよなー?」
頭を撫でた直後の永井先輩の開口一番がこれ。
僕は陸上部に入ったことを早くも後悔し始めた。
けれど先輩には絶対服従、運動部の暗黙の掟。
破れば恐ろしいリンチまがいが待っている。
だから先輩と話したくなくても笑顔で相手をしなけりゃならない。
最初はそれが苦痛で部活に出るに足が重くて仕方なかった。
けれど、だんだんと永井先輩という人を知ると、それは別に僕をからかってるわけじゃなくて、本当に純粋に思ったことを口にする人だということが解ってきた。
面倒見がよくて、裏も表もなくて、優しくて・・・。
そして僕は彼に恋をした。
四六時中、可愛いだの好きだの連発されていた単純な僕は、永井先輩を無意識に少しずつ意識し始め、気づいたらどうしていいか解らない所まで来てしまっていた。
僕は馬鹿だ。 どうしょうもない馬鹿野郎だ。
先輩が僕に言ってくれる「好き」はいわば後輩としての「好き」なんだ。
それが解っているのに好きになっちゃうなんて、自分が恥ずかしい。
そんなとき、部活で飲み会があった。
僕はお酒なんか飲んだ事なくてどれだけ飲めば自分が酔うのか全く解らずに、薦められるまま何だかわからないうちにかなりの量を飲んでしまったらしい。
途中から記憶も途絶え、気づいたら永井先輩が僕をおぶってくれていた。
「大丈夫か?」
優しい先輩の声に首に回った僕の腕が強くなる。
「先輩・・・。」
心臓が痛い。
「ん?」
「・・・気持ち悪い・・・。」
「げっ! 俺の背中で吐くなよ。 ちょっと待て、そこのベンチで休むか?」
「はい・・・。」
先輩はちょうどそばにあった、バス停のベンチに僕を座らせてポカリを買って僕に飲ませてくれた。
「これで少しは楽になるといいんだけど。」
「すいません・・・。」
自分が情けなくて泣きたくなる。
「別にいいよ。 無理矢理飲ませたのこっちだしな。」
笑ってくれる優しい、優しい永井先輩。
暗い道に先輩とふたりきり。
心の中で、今なら言える。と思う気持ちと、言っちゃだめだ。という気持ちがけんかしてる。
苦しい、切ない、好き。
どうしよう、嫌われたくないけれど、このままじゃおかしくなりそう、助けて。
「小野ってば、やっぱ可愛いなあ。 飲めないなら言えばいいのに。 俺らが怖かったのか?」
違うんだ、先輩と同じ物を飲みたかっただけ。 共有したかっただけなんだ。
僕が首を横に振ると、頭を撫でてくれた。
あんなにイヤだったのに恋の魔法に掛かった僕は今じゃそれが一番好きになっている。
「お前のその素直なとこ、俺好きだよ。」
そう言われて、ぐっと堪えていた涙腺が外れてぽろぽろと大粒の涙が頬をつたう。
僕は全然素直なんかじゃない。
今そんなこと言われたら、もう僕は止められない。
「な・・・何だ? 俺何か変なこと言った?」
先輩が慌てている。
男のくせに女みたいに泣きじゃくる僕は世界一情けない。
「僕も・・・好きです・・・。」
とうとう言ってしまった、胸のつかえ。
「それじゃ、俺たち両想いだな。」
先輩は笑っている。
僕の気持ちを誤解して。
「違う! 僕は先輩が本当に好きなんです。」
酔った勢いでしか出来ない告白。
「小野、お前酔ってるからそんなこと言うんだな。」
少しだけ先輩の顔色が変わった。
勝手に口が動く。
「そんなんじゃないです。 僕、先輩がずっと好き。」
目を丸めて心底驚いている。 
答えなんか解ってる。 でもこの苦しさから解放されたい。 もういやだ。
「・・・・・・ごめん・・・・・・俺、お前に誤解させちゃったのか・・・?」
困ったように頭を掻いて、謝ってきた先輩の目は困惑の表情。
誤解じゃないです。
解っています。
なのに好きなってごめんなさい。
もう二度と口にしません。
だから・・・だから・・・。
言葉が思うように出てこない、泣いてるしか出来ない軟弱な奴なんだ、僕は。


あれ以来、僕の頭を撫でることも「可愛い」とか「好き」とか言わなくなったけれど、相変わらず先輩は優しい。
他の人たちは誰も僕たちの微妙な変化に気づいていなかったけれど、やりきれない僕は結局陸上部を止めて、鉄道クラブに入った。
ここの人たちは気兼ねしなくていいからとっても楽。
話すことは電車ばっかりでたまに退屈だけれど、それでもあんなに心を乱されることもない。
恋なんて苦しいだけでいいことなんか1つもなかった。
僕は告白したことを、後悔した。
                                         おわり。

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わけわかりません。 すいません。 破れる初恋を書きたかったのですが(ーー) モノローグっぽく書くのは好きなんですけど、独りよがりになっちゃうので表現するのは難しいですね。