雲が薄暗く太陽を隠して梅雨の鬱陶しい雨が降り出した、そんな街の知らないビルの階段に僕はうずくまっていた。
夕方の少し肌寒くなってきたビルの谷間で考え込んでいた。
今さっき、僕は彼に振られたのだ。

久し振りのデートの帰り際、彼が切り出した言葉は、僕の思考を狂わせた。
「え?今何て言ったの?よく聞こえなかったんだけど・・・。」
嘘だ、ちゃんと聞こえたけれど、解らない振りをした。
「悪いけど、もう、お前とは別れたいんだ。」
途端に僕の身体から体温が奪われた。
「ど・・・どうして?僕、何か気に障ることでもした?」
「そうじゃない。」
彼は僕の顔さえ見てくれてない。
「じゃあ・・・好きな人が出来たの?」
「違うよ・・・、そんな理由じゃない。」
「僕に解るように言ってよ。」
彼は背を向けたまま言った。
「俺にはお前が・・・重いんだよ・・・。」
重い?僕が・・・?
「そんなんじゃ納得出来ないよ!僕には先輩しかいないのに。こんなに好きなのに。どうして?」
彼はやっと僕の方を向いてくれた。
「そういうとこが重いんだよ、お前、いつも言うだろ?「一生先輩しか好きじゃない」とか「いつか、一緒に暮らそう」とかさ。」
「だって・・・本当の事だもん・・・。」
彼がため息を漏らした。
「お前の事は好きだけど・・・でもそんな自信は俺にはないし、プレッシャーにもなってくるんだよ。」
「そんな理由で僕と別れるの?」
到底僕には納得なんか出来ない。
「これでも俺はずっと考えてた事なんだ、もう、疲れたよ、お前といるの。だから、別れる。それじゃ・・・。」
そう言って僕の元を去ろうとしていた背中に抱きついた。
「待ってよ!僕が悪いんなら、直すからっ。だから別れる何て言わないでよ。」
みっともないのは解ってる。
でも彼がいなくなったら、僕はどうやって生きていけばいいか解らないんだ。
僕には彼が全て、彼が生き甲斐。初めて愛した人。


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