こんなに。

〜横山先生の視点・1〜


「なあ、あんた生物教師だろ?」
「へ?」
ドキッとしてさっきまで僕の腕の中にいた若者を見る。 ネットで見つけてさっき初めて逢ったばかりだ。
金髪に染めてるパーマがかった少し長めの髪……丁度日下部くらいか……右耳だけに付いてるピアス、そして綺麗な顔立ち。 大学生とプロフィールに書いてあったが怪しいもんだ。
一晩だけの「友達」になるには充分に満足させて貰った。 こいつ、かなり遊んでるに違いないぞ。
「どうしてそう思うんだい?」
僕がそう訊くと「ヒトナリ」と名乗った青年はニヤニヤしながら
「だってHNが「メンデル」なんて思いっきり生物に出てくるじゃん。 遺伝のとこだっけ?」
と言ってきた。 ああ、しまった適当に付けたのが悪かった。
素っ裸でベッドの横にあるソファにどっかり座って僕の顔を見ながら愉快そうに笑っている。
さっきまでは敬語使っていたのに弱みを握ったと言わんばかりにタメ口になってやがる。 くそガキ!
「それだけで教師だと決めつけるのは少し早すぎないか?」
「それだけじゃなくってさー、なんつーか、一見優しそうに見えて目の奥が何考えてるか解んねーのも教師の特徴じゃねーの?」
「…………」
「別に脅迫しようってんじゃないから安心しろよ。 たださー、ちょっと似てるんだよな。」
「……誰に……?」
「んー? 俺の初エッチの相手。 そいつも教師だったからさ」
目を見張って驚いた。 生徒に手を出す教師があいつの他にもいるってのか?
僕なんかゲイだって事を知られずにノンケの振りして頑張ってるってのに。
「そんな事して……学校にばれなかったのか?」
「んなまぬけな事すっかよ! 別に付き合ってたわけじゃねーぜ、取引みたいなもん? 先生は俺の身体が目的だったし、俺は成績を随分と上げて貰ったし」
教師が1人の生徒を贔屓してたって事か?
「そいつサイテーだな」
「そうかー? メンデルさんて結構真面目な先生なんだね」
「別にそういうわけでも……」
言ってから「しまった!」と思ったが遅かった。 目の前の青年はニヤリと口の端を上げた。
「やっぱり教師じゃねーかよ。 素直じゃないね〜、先生」
ちくしょー! はめやがった! こいつはぎゃはは、と大笑いしてるしっ。
「ひーっ! おっかしー! こんな単純な手に引っかかる奴が今時いたとは!」
「ヒ……ヒトナリくん! 君は僕をバカにしてるのか!?」
「えー? してねーよ」
そう言いながら目尻から出た涙を拭いている。 泣くまで笑う事はないだろうが!
「俺、そーゆー奴キライじゃないぜ。 何考えてるか解んなかったさっきよりずっといいよ」
「…………っ」
一通り笑った後、彼は部屋にあった小さめの冷蔵庫を開けて
「何か飲む? 俺喉渇いちゃった」
と訊いてきたから
「ビール」
と答えると缶ビールを2つ取り出して1つを僕の方へ投げた。
まだベッドにいた僕の横にドサッと座ると乾杯をして冷えてる液体を口に注ぐ。
「ぷはー、やっぱエッチの後のビールはサイコー」
思わず吹き出しそうになってしまった。 若いっていいよなぁ。
「あんた面白いよ、俺、気に入った」
「はは、ありがとう……」
苦笑混じりにお礼を言うと彼がキスをして彼の中で温くなったビールが僕の口に移動してきた。
「んんっ」
「……なあ、もう1回する?」
「え!?」
「身体が火照ってきちゃった」
そりゃアルコールの所為じゃないのか? と言おうとするより前に僕の股間をわしづかみにしてきて慌てた。
「き……君……」
「今度は俺がサービスしてやるよ、先生」
そう言って僕の手から缶を取り上げて下に置き、いきなり1番敏感な部分を口に含み始めた。
「うわっ……」
ビールの所為で舌が冷たくて、セックスの後の汗ばんだ身体に一瞬だけ鳥肌が立つ。
「勃ってきたじゃん、あんたの息子」
「ちょ……ちょっと待っ……」
「入れちゃおうっと」
言い終わらない内に彼は僕の物を自分の中に挿入した。
「あっ……いいっ……あんたすげーいいもん持ってるよ」
最近かなり溜まっていた僕は今日2回目にもかかわらず、馬乗りになって乱れている青年に対して理性を失い、いつしか自分も腰を振っていた。



「だる〜……」
はぁ、と溜息を付いてホテルを出て電車で15分、バスに乗り換えて20分の3階建ての中の我が家に着いた時にはぐったりしていた。
2Kのこの狭い部屋がまだ教師になって数年の自分には精一杯だ。
あのヒトナリって子と結局3回もやってしまった。
「久し振りにフィットしたセックスだったぜ。 ま、もう2度と逢う事もないと思うけど元気でなー。 んじゃホテル代よろしく〜」
と情事の余韻を残す事もなく、終わった途端さっさと部屋を出て行った。
延長代やらビール代やら併せて結局1万円近くも取られた。
何だか遊ばれた気がするのは気のせいか?
……まあ、金スられなかっただけよしとするか……それに本当に気持ちよかったし。
しかし最近の若者は随分積極的なんだんぁ、とか思う。 日下部もあれくらだといいのに……ってその前にあいつゲイじゃないし。
1番奥の部屋の机の上にある写真立てを手に持ってそこに写っている日下部の顔にチュッとキスをした。
「ただいま」
これが僕の日課になっている。 この写真は前に新任教師歓迎会の時に撮ったものだ。 もちろん日下部を撮る為にわざわざカメラ持っていったんだから毎日写真にキスしたりそれをオカズにオナニーしたって僕の自由ってもんだよな。
しかし、あの女好きはそんな事露知らずに僕に馬鹿な事ばかり言ってくる。
いつだったか教師になった理由を訊いた事があるが何て言ったと思う?
あいつは笑いながら
「そりゃあ、俺に告ってきた生徒とエッチする為。 やっぱさー胸はでっかい方がいいよな〜」
と悪びれる事なくきっぱりと言ったのだ。 まったく教師失格だ! あのエロ教師が。
なのにそんな日下部に惚れているんだから困ったモンだ。
大体好きになったからって女好きのやつにそんな事を言える訳もなく悶々とした日々を送るしかない僕はとっても不幸だと思う。
どうしても我慢出来なくなると今日のように1回きりの相手と寝る事にしているんだが。
教師という立場上、2丁目に行って男漁りするとかそんな派手な事はせず、最近はもっぱらPCゲイサイト専門になっている。
今日のヒトナリと名乗っていた青年ともそれがきっかけで逢ったのだ。
名前なんか名乗らなくていいし、後腐れないしこの制度はなかなか気に入っている。
バタンとベッドに寝っ転がって枕元に置きっぱなしにしてあるリモコンの電源ボタンを押すと途端にやかましい笑い声が聞こえてきてバラエティーがやっているのでニュース番組に変えた。
政経の教師ではないが、一応時事問題は知っていないとな。
もし生徒に訊かれて答えられないと格好がつかない。
ニュースではどっかのバカ教師が女子生徒を自宅に連れ込んで不埒な事をしたとか言ってる。
はぁ〜、いつか日下部もニュースに取り上げられる日がくるかもなぁ。 とか考えてあながち冗談ではすまされない気がしてくる。
そんな子供とやって何が楽しいんだか……僕は理解に苦しむ。
やっぱ成熟してる身体じゃないと面白味ってものがないじゃないか。
…………日下部の身体……どんなんだろうなぁ、結構イイ身体してそうだよな……。
「……そうだ、小テストの採点しなきゃ……」
明日には1年4組の奴らに渡さなけりゃならない。 そーいえば、あのクラスにはやけに最近目が合う奴がいたなぁ、名前なんだっけ?
重い腰を上げて机に向かって採点を始める。
どうしてこんな簡単な問題が出来ないんだ? こいつら。
だんだんと○やXが雑になっていく中、1人の名前に行き着いた。
そうだ、西尾だ。 爽やか系な顔をした、それこそ女子にもてそうな奴だ。 
よく目が合うのはもしかして僕に気でもあるんじゃないのかぁ? 考えると誰とも付き合ってなさそうだしな。
もしそうでも・・・いくら僕がゲイだとしても悪いが君とは付き合えないよ、生徒に手を出して訴えられても困るからね。
それにしても僕は愛する人とも添い遂げる事もなくこのまま一生独りなんだろうか・・・?
それを否定するように首をぶんぶん振った。
今そんな事考えたって仕方ないじゃないか。 この先女好きの日下部がゲイになる確率はかなり低いと思うがふとしたきっかけでノンケがこっちの人間になるって事もないこともないしな
……
暫くは仲良く出来るだけで充分だ
……
そしてもう1回日下部の写真を手に持ちキスをした。
「おやすみなさい、日下部先生」
今はまだ時期じゃない
……いつかはきっと好きって言える日が来るだろう。
それまで僕は見てるだけで我慢してるよ、日下部。
    

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