こんなに。

〜横山先生の視点・2〜

見てるだけでいいと、そう思っていたのが今から3週間前。
日下部がゲイになる確率はかなり低いと思っていた筈なのに……なのに……今目の前で繰り広げられている光景は一体何なんだ!?
嫌な予感がして来てみればー!!
確か2週間前、日下部は西尾に告白されて男だからって困っていなかったか?
1週間前にはちゃんと断ったって言ってなかったか?
それがどうしたらこうなるんだよ!?
西尾はニヤニヤしてるし、日下部はあからさまにやばいって表情だし、机の上にあった本は散乱してるし。
それになにより床に落ちてるねっとりした白濁色の液体はどういう事なんだ!!
やったのか!? こいつらやっちまったのかー!?
落ち着け、そうとまだ決まったわけじゃない。
「どうして鍵なんか掛けてたんです?」
日下部を睨みながらそう訊くと、いかにも「今考えました」ってな言い訳をしてきた。
「ちょっと西尾に相談を持ちかけられまして……」
「何の話で?」
僕がそう詰め寄ると困っている日下部の変わりに西尾が答えた。
「何って……ナニ?」
ナニー!? やっぱやったのかー!!
じゃあ、その床にあるザーメンはどっちのだー!!?
西尾の勝ち誇ったような顔が腹立つっ! ちっくしょー!!
そうか、その目、目が合うのは僕に気があったんじゃなくて睨んでたのか!
「あ……あの……部活のことで……」
嘘を付け! 嘘を!
「横山せんせー、用がないんなら出てってくれねー? 部活の事で日下部先生に相談してるって言ってるだろ」
「……僕がいちゃ迷惑なのかな? 西尾くん」
絶対この場から離れてやるものかっ。 
「解ってんなら早く消えろよな」
「教師に向かってその言葉遣いはないんじゃないかなぁ?」
僕がそう切り返すと西尾ははぁ〜っと大きい溜息をこれ見よがしに付いた。
むかっ腹立つその態度は日下部のタイプだとはとても思えん!
何かの間違いなんじゃないのか? そう思おうとしたが、どう見てもセックスしたとしか見えないこの状況が変わるわけでもなく……。
「……西尾……」
日下部に名前を呼ばれた西尾はくるっと180度回転をして
「何? カベちゃん」
と態度を豹変させて猫なで声になった。
ってカベちゃんて何だよ!? いつからお前らそんな風に呼び合う仲になったんだ!?
日下部は左手をこめかみに当てながら言った。
「お前……今日は帰りなさい」
「え〜? 何で俺が帰らなきゃなんねーんだよ?」
「いいから帰れって」
そう言われた西尾は「ざけんなっつーの。」とかぶつぶつ文句を言いながら僕には「てめー、覚えてろよ」と言って準備室のドアをバンッと大きな音を立てて向こうに消えていった。
2人きりになった部屋の空気がどーんと重くなる。
日下部は僕以上にバツの悪そうな顔をして頬杖を付いていた。
「……どういう事ですか?」
僕がそう訊くと
「何が?」
とまだ嘯(うそぶ)いている。
「何がじゃないでしょう? 日下部先生は西尾くんと……その……やったんですか!?」
「やってねーよ!!」
言われて日下部は興奮したように思いっきり否定してきたが、そう言われたところで到底「はいそうですか。」なんて納得がいく筈ない。
「じゃあ、これは何です?」
僕が白濁色のそれを指すと、日下部は溜息を付いて側にあったぞうきんでそれを拭き始める。
「あの野郎、ちゃんと拭けって言ったのに」
その言葉にカーッと血が上った。
「やっぱりしたんじゃないですか!」
「だからやってねーって言ってるだろ!」
どうして僕が逆ギレされなきゃならないんだよ。 ここで負けてなるものかーっ!
「誰がどう見たってそう思いますよ」
「……やらなくったってザーメンくらい出る」
「……は?」
「抜いてやったんだよ。 解ったか?」
ぬ……抜いたー!? 日下部が西尾を!? じゃあ、これは西尾のって事か?
僕はショックのあまりふら〜っと目眩がした。
そ……それは……手で? まさか口じゃないだろうな……。
「しようと思ったらお前が入ってきたんだよ。 お陰でこっちは奉仕損だ、まったく」
更にショーック!
ああ、それにしても僕の嫌な予感は当たったって事か。 これも愛の力ってやつだなぁ。 などと浸ってる場合じゃないっ。
「……日下部先生はゲイだったんですか?」
「はあっ? 俺が? んなわけないだろう」
「じゃあ、どうして西尾くんと……」
そう僕に言われて日下部はふうっと息を吐いた。
「前に言ったよな? 俺の夢は告ってきた生徒とやる事だってさ」
何だ? その理由は!! 
「男子でもいいって事ですか? それはっ!」
何て節操がないんだ、この人は。 
「しょーがねーだろ、あいつ結構可愛いんだぜ、必死にすがっちゃったりしてさー」
思い出してうくくっと笑っている日下部を僕はボー然と眺めるが、どこをどう見たらあの西尾が可愛く映るって言うんだ? 僕には単なる生意気なガキにしか見えないぞ。
そう思ったら沸々と嫉妬の炎が燃え上がってきた。
僕は日下部が超女好きのノンケだと思っていたからこそ自分の気持ちを抑えていたんだぞ。 それが何だ? 当の本人は告白されたっていうだけで最後までやってないにしても(怪しいもんだが)男子生徒に手を出したとはどういう事なんだよ!
この隠れホモー!!!
ちっくしょー! やってやるっ! 今ここで日下部をやってやるーっ!
日下部が男もオッケーな人間だと解ったからには僕が遠慮なんかする必要は何処にもないって事だよな?
「……日下部先生、さっきしようと思ったら僕が入ってきたって言ってましたよね?」
「あ? ああ」
僕はキラーンと日下部の瞳をじっと見つめると、少し後ずさりをされる。
失礼な!
「それじゃ、今、辛くないですか?」
「は!?」
「僕が続きしてあげましょうか? ねぇ、日下部先生」
「横山……お前何言ってるんだ……?」
その怯えた顔がそそりますよ、日下部先生。
ここには2人しかいない。 そう思うだけで僕の中心は熱を帯びてきた。
「何って……だから僕が日下部先生の事、抜いて差し上げるって言ってるんですよ」
僕が思いっきりの笑顔を日下部に向けると、それと反比例してサーッと血の気が引いていくのが確認出来てムカつくと同時に僕の中の何かがガタッと外れる音が耳の奥で聞こえる。
「な? 冗談だよな? 俺をからかってるんだろう?」
引きつり笑いで誤魔化そうとする日下部の顔を両手でがっちり押さえ込んで顔を近づける。
「これが冗談に見えますか? ……好きですよ、日下部先生」
「ちょっ……待てよ! おいっ!」
棚を背にした日下部は逃げ場がなくなっている。 バカですねぇ、日下部先生。
「先生は告白されたら誰とでもやるんでしょう? だったら僕とでもいいじゃないですか」
「お前は生徒じゃなーい! 俺はホモでもなーい!」
「そんな詭弁、通用すると思ってるんですか? だったら男同士でどうやるか、僕が教えてあげますよ、これでどうです?」
「そんなのいら〜ん! だからは〜な〜せ〜!!」
「もう遅いですよ、男の生理なんだから先生だってよく解ってるじゃないですか」
ここまできて逃がしてやるもんか。 僕がどれくらいこの機会を待っていたと思ってるんだ。
やっぱり写真にキスするのとはドキドキ具合が全然違うなぁ。 ふふ。
それじゃ、いただきまーす。

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