水面の下の永遠 
No.8

「!!・・・なっ・・・!」
僕は目をつぶった。
その直後、噤の口から声ではなく赤い血液が噴き出した。
「た・・・喬・・・?」
噤が振り返って僕を見る。
僕は既に流れ出る涙で顔がぐちゃぐちゃになっていた。
「噤・・・・・・、愛してるよ・・・・・・。」
ズルッと僕の身体から滑り落ちる噤の身体をしっかり受け止める。
もう痙攣が始まっていた。
「僕もすぐに追いつくからね・・・1人じゃ往かせないから・・・。」
「ああ・・・喬・・・・・・。」
噤は今までで一番優しい微笑みを僕にくれて・・・・・・そのまま動かなくなった・・・。
僕の腕の中で愛する人の命が消えていった・・・。
「噤・・・・・・ごめんな・・・・・・。」
僕には噤が中毒で苦しんで死ぬのは耐えられない。
だからせめて僕が楽にさせてやりたかった・・・。
これは僕のエゴだって解っててやったのだ。
そんな僕を噤は最後の最後で許してくれた。
僕は自分のジッパーを上げて、噤の服を整えた。
噤の身体は真っ赤な鮮血に染まっていて美しいと思う。
そういう風に思ってしまう僕は・・・もう狂っているのかもしれない。
後悔はしていない。 もう噤を苦しめてきたものは何もないのだから・・・。
そして僕はポケットからもう一粒カプセルを取り出して自分の口に入れて飲み込んだ。
待ってて・・・もう少しで君のもとへ往くからね・・・・・・もう・・・意識が無くなってきた・・・。
噤・・・・・・僕が殺した愛しい命・・・・・・。

 

次の日独房の前に、喬の先輩2人と警部が立ちつくしていた。
「何でっ・・・何でこんなことになるんだよっ!」
「吉田は馬鹿だっ、あんな薬物中毒者なんかと死ぬなんてっ。」
「どっからあんな物手に入れたんだ・・・?」
警部が質問をすると、1人がそれに答えた。
「昨日・・・あいつ、薬物検査室に行ったらしいんです・・・その時に青酸カリを2カプセルと睡眠薬を数粒盗んだらしくて・・・。」
「じゃあ、吉田がやったのか・・・。」
警部は深いため息と共にぽつりと言う。
「取り調べで2人きりにしたのは俺だ・・・俺の所為だ・・・。」
「それは違いますよ、警部。 こいつは自分で決めたんだ。」
「そうかもしれんが・・・。」
「それに・・・見て下さいよ、警部・・・。 2人の顔を・・・。」
「・・・幸せそうな顔してやがるよ・・・やりきれんな、まったく・・・。」
「吉田の幸せって・・・なんだったんでしょうか・・・。」
「さあな・・・俺には解らんよ・・・。 さあ、俺たちは哀しんでる暇はないぞ。 ほら、お前等もう他の奴らも呼んでこい。」
「解りました。」
2人が出て行った後、警部は1人喬の前に立って呟いた。
「お前はこれで幸せだったのか・・・?」
そう言って警部もその場を後にする。
そして狭く冷たい部屋の中は、重なる様に横たわって微笑みを浮かべている2人だけになった・・・。
                              
                                            終
BACK← →NOVELTOP →おまけ