寛之が玄関を出ると、その前に1人の男が立っていた。
「なんだ、裕太、もう来てたのか。」
「ああ。」
「んじゃ、行きますか。」
2人で道を歩き出す。
今日は地元で毎年行う花火大会に行くところなのだ。
「ひろ〜、お前ちゃんと浴衣着てきたんだな。」
裕太がそう言うと、寛之はちょっと照れる。
「だってお前が着てこいって言ったんじゃねーかよ。」
「へへ、だって絶対似合うと思ったからさ、うん、俺の目に狂いはなかったな。」
「ばーか。」
寛之と裕太は高校で出会ってから20歳になる今までずっと付き合ってる仲なのだ。
寛之はてっきり卒業したらそれで終わりだと思っていたのだが、裕太は全然そんなつもりが無かったらしい。
それを知ったとき、不覚にも安心してしまった自分がいた事に寛之は驚いた。
「なあ、ひろ、大学って楽しいのか?」
裕太は寛之を「ひろ」と呼ぶ。そう呼ぶのは裕太だけだ。
「まあな、お、そう言えば俺この前同じゼミの子に告られちゃったぜ。」
寛之は裕太が嫌がるのを知っていてそう言った。
案の定、裕太が不機嫌そうになる。
「お前さー、そう言うことを俺に言うか?普通。 それでどうしたんだよ?」
裕太は煙草を胸のポケットから取り出し、火を付けた。
煙がすっと上がっていくのを眺めるのが寛之はなんとなく好きだった。
「どうって?」
「だからー! ちゃんと断ったんだろうな?」
「どうだったけ。」
「てめー、すっとぼけてんじゃねーぞ。」
そう言われて寛之はベッと舌を出して笑った。
裕太のちょっぴり怒った顔が好きなのだ。
「このヤロー、ここでキスするぞ。」
「何だそれ、変な脅迫。」
寛之はプッと吹き出した。
周りを見渡すと、もう沢山の人が楽しそうに同じ場所を目指して歩いている。
裕太は吸っていた煙草を消して、それを用意していた携帯灰皿にいれた。
その光景を見て、寛之は俺ってこいつのこーゆーとこ好きなんだよな。と思うのだ。
しばらく歩いていると、少しづつ露店が増えているのに気付く。
「おい、何か食うか?」
裕太にそう言われ、寛之はあんず飴の前で立ち止まった。
「お前も好きだな。」
「うるせーな・・・あ、おっちゃん、すもも一本ちょうだい。」
そう言って氷の上に置いてあるすももを取る。
「もちろんお前のおごりだよな? 社会人。」
「こーいう時だけそれかよ。」
とぶつぶつ文句を言いながらも結局裕太が代金を払っている。
裕太は高校を卒業すると、そのまま家業を継いで魚屋になった。
一緒の大学に行こうって言ってたのにさ。寛之はそれを少し不満に思っているのだ。
大体、俺、魚嫌いなんだよ。
そう思っていると、裕太が焼きそばを手にしている。
「いつのまに買ったんだ?」
「いや・・・隣で売ってたから・・・。 俺、腹減ってるし。」
「俺にも食わせろ。」
寛之は口を大きく開けた。
「ったくしょーがねーな。」
裕太はやきそばを箸で取り、それを寛之の口へ持っていって入れた。
「う〜ん・・・あんまり旨くねーな。」
「人の食っておいてよく言うぜ、おめーはよ。」
もう人が波の様に押し寄せてきて、まともに歩く事が出来なくなっていた。
「これじゃあ、風情も何もないよな。」
寛之はただでさえ大学で大勢の人間を見ているので、うんざりする。
「じゃ、場所変えるか?」
「何処に?」
「俺のとっておきの場所があるんだ。 2人でゆっくり花火見られるぜ。」
「だから何処だよ?」
「行けば解る。」
寛之は裕太の顔をじっと見て、
「まさか、ホテルとか言わねーよな?」
と言うと、裕太は笑い出した。
「考えすぎだっつーの! 大体建物の中じゃ雰囲気が台無しになるじゃねーか。」
そう言われて、ホッとする。
「だったら、行く。」
「それじゃ、早く行かねーと始まっちゃうな。」
2人は人混みをかき分けてそこを後にした。
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