NO.2

「おい、裕太、お前のとっておきの場所ってここだなんて言わねーよな?」
「え? 誰もいなくていいじゃん。」
裕太に連れてこられた場所は、2人が卒業した高校の屋上だった。
警備員の目を盗んで侵入したのだ。
こいつはわざとここにしやがったな、と寛之は思った。
なぜならば初めて2人がキスした場所だったから。
「思い出すよなー、あん時のお前ってばすっげー震えてたもんな。」
どうやら同じ事を考えていたらしい。
「うるせーよ!」
寛之は、プイッと裕太の側を離れて金網に指をかけて花火が打ち上げられるはずの方向を見る。
「あーあ、あん時のひろって可愛かったよなー。」
その言葉に反応する。
「男が可愛いなんて言わたって嬉しくねーよ。 ばーか。」
「お前ってすぐ人の事ばかばかって言うよな。」
「だって本当の事だろっ。」
そう言うと、裕太はニッと笑う。
「そのばかに惚れてるのは誰何だろね。」
「!!」
自分の気持ちが見透かされている様で、寛之はムッとした。
なんなんだよ、こいつはっ!折角久し振りに会ったっつーのに。俺を怒らせたいのか?
裕太は今日2本目の煙草を取り出し、口に加えた。
それを見た寛之が、
「俺にもよこせ。」
と煙草が入っているケースを胸ポケットから取り上げる。
裕太がくすっと笑った。
「人の物を取るクセも全然変わらないな。」
「何か文句あんのかよ?」
「いや・・・、でもさー、ひろ、それって俺のだけにしろよ。」
「何だ、それ。 火貸せよ。」
「はいはい。」
そう言って、裕太は自分の口にある煙草を近づけて、寛之はそれをくわえている煙草に当てて火を移動させた。
ふーっと煙を吐いて、遠くを見ていると、大勢の声が会場の方から聞こえてくる。
それを静かな場所で聞いてると、
「・・・何か別の世界にいるみてー。」
ポロッとそんな科白が寛之の口からこぼれてきた。
「世界で二人っきりみたい?」
裕太が笑いながら言うので、寛之は今、自分が言ったことが恥ずかしくなってきた。
「そういう意味じゃねーよ、ばか。」
「ふーん、ま、いいけどさ。」
裕太は意味ありげに寛之を見ながら言った。
その時、ドーンという音と共に大歓声が上がった。
「お、始まったな。」
見上げると、一発目の花火が街を明るく照らし出す。
「すっげー!! やっぱ綺麗だよな、花火って。」
感動して寛之は目が離せなくなった。
一発目が始まると、その後は何発もの花火がこれでもか、と言わんばかりに続いている。
「何だー? あれ、ドラえもんじゃん。 よくあんなの作れるよなー。」
寛之はさっきここに来たとき怒っていた事も忘れてはしゃいでいる。
「ここ、気に入った?」
「ああ、気に入った。」
視線を花火から外さずに答える。
その横で裕太は寛之から視線を外せないでいた。
子供みたいに喜んじゃって・・・やっぱ今でもひろは可愛いよ。
裕太は寛之の頬に唇を付けた。
「な・・・何すんだよ。」
「ん〜? あんまりにもひろが花火に夢中だから、俺の方も見て欲しくってさ。」
「はあっ? 訳わかんねー事言ってんじゃねーよ。」
「ちょっと黙ってな。」
今度は唇を奪う。
「・・・裕太・・・煙草臭い・・・。」
「お互い様だろ?」
そう言って、もう一度唇を重ねる。
「んんっ・・・。」
裕太が寛之の口の中に舌を入れると、それに反応して舌が絡んできた。
それが気持ち良くって裕太は自分の口腔内に寛之を誘い、舌が入ってきたところを吸い上げる。
「・・・う・・・んっ・・・」
「キスするの・・・久し振りだよな。」
唇を離して裕太がぽつりと言った。
「そうだっけ・・・?」
寛之は何だか気恥ずかしくてそっけなく答えてしまう。
「なあ・・・いい?」
いきなりそう言われて寛之は呆れた。
「お前、何言っちゃってるわけ?」
「だって・・・俺たち3ヶ月もやってないんだぜ。 解ってる?」
「今日は花火を見にきたんだろ!?」
「ひろは花火見てていいからさ。」
「はあ?・・・・・・っておいっ!」
裕太は寛之の胸元に手を入れていた。
「ひろの浴衣姿すげー色っぽいしっさー、俺もう、我慢できねーよ。」
「裕太!・・・っ・・・てめーアオカンする気かよっ!?」
「誰も見てねーよ。」
裕太は寛之の腰を抱きしめながら、顎から首筋にかけて舌を這わせる。
「・・・・・・つっ・・・俺はっ・・・花火を見るんだからなっ・・・」
空を見ると、ハートの形をした花火が咲いている最中だった。
「ほら、花火も俺たちを応援してくれてるじゃ〜ん。」
裕太は笑いながら左手で寛之の胸をまさぐっている。


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