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悠斗が住んでいるアパートの階段を上がって奥から2番目のドアの鍵を開ける。
築20年のこの建物はもう随分と薄汚れている。
親の仕送りで生活している悠斗にとって六畳一間の狭い部屋、これがやっとの我が家だ。
通ってる専門学校は最近ちょっとサボリぎみ。
何をやっても満足することはないし気力も起きない、唯一の楽しみが毎週ネットで募集した相手とのセックスだ。
ー何か俺ってば堕落した生活送ってるよな・・・。
それは自分でもわかっているが、そこからどうしても抜け出せない。
どうしてなのかはよく解らないが、わけもなくイライラが悠斗の頭を波のように漂っている。
ぬるいシャワーを浴びると、さっきの男の身体中を触った手の感触も一緒に流れてくれているようだ。
いつもこの時ばかりは、少しだけ後悔が残る。
どんなに相手との交渉が上手くいっても、自分は一体何を求めているのか解らなくなる。
ため息を一つ漏らして、シャワーを止める。
腰にタオルを一つ巻いて、パソコンの前に座ってスイッチを入れる。
メールをチェックすると、数人の男から誘いの言葉が入っていた。
大抵「やあ、君の募集を見ました。顔が好みなので、是非僕の相手になってください。」とか書いてある。
ふん、と鼻を鳴らす。よくもまあ、世の中にこんなにゲイがいるもんだ。と悠斗は感心するのだ。
悠斗はゲイサイトの友達募集のコーナーに写真付きで応募している。
「俺は22歳の大学生です。良かったら友達になりましょう(笑)。因みに俺はネコでーす。H.N.ヒトナリ」
年齢と大学生は嘘である。本当は20歳の専門学校生で、ヒトナリは悠斗のハンドルネームだ。
悠斗はかなりの細身で、顔も結構いい線をいってるんじゃないかと自分でも思っている。
来るメールの殆どに「顔が好み」とか書かれているし。
何人かの似たような文章の中に一つだけ気になるものを見付けた。
「こんにちは。僕は26歳の会社員です。募集を見て、僕も友達が欲しいので、メールさせて戴きました。何でも話せる友達になりたいと思いますので、よろしくお願いします。 夏紀」
割と丁寧に書かれたそれを眺めて、悠斗は笑った。
ーこういう、一見何もしません、みたいな文書く奴に限って実際に会うと激しいんだよな。
どうやら悠斗はこの送信者に相手を決めたようだった。返事を打って送る。
「メールありがとうございまーす。こちらこそよろしくお願いします。来週の今日良かったら会いませんか? ヒトナリ」
愛用のマルボーロメンソールを1本取り出して何処かから拾ってきた百円ライターに火を付ける。
灰皿は面倒で買ってない代わりに、コーラの空き缶がその役目を果たしている。
3本目の煙草に火を付けようとしたとき返事がきた。
「返事嬉しかったです。わかりました。時間と場所はどうしたらいいですか? 夏紀」
随分早い返事だな・・・、と悠斗は思った。
嘲笑を浮かべて、メールを打つ。
「俺は何時でもO.K.なので夏紀さんが決めちゃってください。返事待ってます。 ヒトナリ」
すると今度は一分もしないうちに返事が来た。
パソコンの前で悠斗からのメールを待ってたに違いない。
「午後8時に池袋のいけふくろう前はどうですか?家から遠ければ言って下さい。 夏紀」
いけふくろうとはまたベタな場所を・・・、と思ったがどうせすぐにホテルに直行だろうし、ま、いいか。
と悠斗は了解のメールを打った。
「全然大丈夫です。それじゃあ、夏紀さんに会うの楽しみにしていまーす。あ、俺そっちの顔わからないので、夏紀さんの方から俺を見付けてくださいね。それじゃあ、来週の金曜日に。 ヒトナリ」
これで来週の相手は見つかった。
どんな奴なのかな?文章見ると、むっつりの営業マンて感じかな?
悠斗は相手を想像しながら、万年床の布団に潜り込んで読みかけの雑誌をめくり、いつの間にか眠っていた。

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