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午後8時を5分過ぎた頃、悠斗は池袋に着いた。
雑踏の中、待ち合わせ場所のいけふくろうを目指す。
相変わらず凄い人混みだ。
悠斗は人混みにいると不思議な感覚を覚える。
こんなに大勢の人間がいるのに全員見知らぬ他人で、自分以外の人間には無関心で、孤独だ。
それを排除するかのように、みんな陽気に振る舞う。
何処か滑稽な景色に映る。
いけふくろうに着いて周りを見回してみる。
周りも待ち合わせの人間が溢れている。
友達と待ち合わせているらしき3人組の女の子達、彼女に待ちぼうけをくらってる男性達、相手がいるのを見付けて喜んでいる女性達。
この中の何組のカップルが今日ホテルに行くのかなぁ。
などと不謹慎なことを考えていると、不意に後ろから声がした。
「あの・・・、もしかしてヒトナリくんですか?」
来たっ、と思いながら振り向く。
この瞬間が悠斗は一番好きだ。期待でわくわくしてくる。
スーツを着た男が立っていた。
「そうですけど、夏紀さん?」
笑顔で返しながら、随分ぬぼーっとした奴だな、と悠斗は思った。
「良かったー、来てくれなきゃどうしようかと思ってましたよ。」
にこやかに笑いながら夏紀という男が言ってきた。
「初めまして、ヒトナリです。」
言いながら手を差し出すと向こうも手を差し出して握手をする。
「あ、初めまして、僕、澤谷といいます、よろしく。」
え・・・?澤谷?悠斗は不思議に思った。人違いだったのだろうか?
「あの・・・夏紀さんじゃないんですか?」
「いや、夏紀は名前で名字が澤谷です。」
悠斗は驚いた。ー本名で応募してきたのかよ?!そんな奴今まで見たことない!
変な奴・・・。
「じゃあ、何処か行きたい場所ありますか?」
澤谷夏紀が聞いてきたので、悠斗はにっこり笑って答えた。
「夏紀さんに
任せますよ。」
どうせホテルなんて何処も同じだ。やることは一つしかない。
それに相手に場所を任せると、大抵ホテル代は相手が払ってくれることを悠斗は今までの経験から解っているのだ。
「そうか・・・何処がいいかなー?」
夏紀は考えるポーズをしながら下を向いている。
今夜はこの冴えない男とヤルのか・・・。何て悠斗が思っていると夏紀が言ってきた。
「どうせならさ、僕の家にこないかい?」
「い・・・家?夏紀さんの?」
いきなり自宅に誘われて、悠斗は面食らった。
今まで家に来い、何て言った人間は1人もいない。
お互いに素性を明かさずにその場だけの情事にふけるのがルールだと思っているからだ。
どうも夏紀という人間はどっかずれていると悠斗は思った。
「僕の家、ここから歩いて15分くらいの所にあるんだ。お店だとお金かかっちゃうしさ。どうかな?」
ホテル代をケチろうというのか、それとも家でなきゃならない理由があるのだろうか?
ーまさかこの人の家に行くと、SM道具が一式なんてことないよな・・・?
悠斗はあらぬ想像をしてしまった。
しかし、少しだけ悠斗は夏紀に興味をもってきた。
今までにいないタイプに見えたからだ。
「いいですよ、俺、夏紀さんの家でも。」
そう悠斗が返事をすると、夏紀が嬉しそうに、
「そう?良かった。じゃ、行こうか?」
と歩き始めた。
後から付いて行こうとする悠斗に夏紀が尋ねる。
「ヒトナリくんはビールとか飲めるかな?」
「あ、はい。」
「じゃあ、酒屋に寄って、色々買って帰ろう。」
「はあ。」
何だか、夏紀のペースに悠斗は巻き込まれている気がした。

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