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「ここが僕の住んでいるマンションだよ。」
見上げると10階建てくらいのりっぱな建物があった。築5年くらいだろうか?
「綺麗なマンションですね。」
悠斗が誉めると夏紀は嬉しそうに、
「そうかな?さ、行こう。」
とオートロックを解除してエントランスへ入って行った。
エレベーターは2台あった。
悠斗の住んでいるアパートとは偉い違いだ。
7階でエレベーターが止まって降りると、一番端のドアに向かって歩き出す。
鍵を夏紀が開けてドアのノブを掴むと、悠斗の方を向いて、
「さ、どうぞ。」
とドアを開けた。
悠斗は何だかちょっとだけ緊張する。でもそれは夏紀には気付かれないように。
「おじゃましまーす。」
悠斗が入ると目の前に広がったのは生活感のない綺麗な部屋だった。
「何にもなくて驚いたでしょう?」
後ろで夏紀が声を掛けてくる。
「そうですね・・・。」
「あんまり物置くの好きじゃないんだ。引っ越してきたばかりだし。」
想像してた夏紀の部屋とは随分違うのに悠斗は驚いたのだ。
イメージとしては自分と同じように物が散乱してる部屋を想像してたからだ。
夏紀の部屋はワンルームで小さなキッチンが付いている。
その向こうに大きめのテレビとオーディオデッキ、パソコンと小さな本棚、そしてベッドがあるだけだった。
部屋を眺めていると、夏紀の声が、洗面所の方からした。
「ヒトナリくん、こっちで手、洗って。」
「はあ。」
悠斗はあまりそういう事は気にしない性格なので、夏紀がとても几帳面な人間に見える。
言われるままに声のした方へ行くと、夏紀が新しいタオルを悠斗に差し出した。
「これ、使ってくれていいからね。」
「どうも。」
ー何か調子が狂うな・・・。
悠斗は変な気持ちで手を洗ってキッチンへ戻ろうとすると、夏紀が、
「ちゃんとうがいもしなきゃだめだよ。」
と言ってきた。
しぶしぶうがいをして、夏紀のそばに戻ると、さっき買ってきたビールが2つキッチンの小さなテーブルに置いてあった。
「じゃあ、改めまして、よろしく、ヒトナリくん。」
ビールの缶を一つ渡される。
「よろしく、夏紀さん。」
2人は缶を開けて乾杯をした。
夏紀は一気に飲み干すと、満足そうに、
「やっぱり僕はビールが一番好きだな。」
と言っているが、悠斗は一口しか飲んでいなかった。
何もしてこない夏紀にイライラしているのだ。
大概今までの男達はホテルの部屋へ入るなり悠斗を抱きしめるからだ。
そんな悠斗を夏紀は不思議そうに聞いてくる。
「どうしたの?ビール嫌い?」
「・・・でだよ?」
「え?」
「何でなんにもしないんだよ?」
悠斗が叫んだ。
「な・・・何もって・・・?」
夏紀はいきなり怒り出した悠斗にびっくりしている。
「あんた、何のために俺にメールしてきたんだよ!?」
「何って・・・だから、ヒトナリくんと友達になろうと思って・・・。」
悠斗はムカッっとして、自分が着ているTシャツを脱いで、ベッドのある部屋に行こうとする。
「だったら早くお友達になろうぜ。あんたもそんな小細工なんかいいから、服脱げよっ。」
夏紀がきょとんとした顔をしてる。
「どうせヤルんだったら、ビールなんかいいからこっちに来いよ。」
その言葉でやっと夏紀は理解して赤くなる。
「やっ・・・僕はそういうつもりじゃないんだよ。本当に友達か欲しかっただけなんだ。」
今度は悠斗がきょとんとしている。
「だって・・・俺ちゃんと、ネコだって書いたじゃん。」
「そうだけど・・・でも友達って書いてあっただろ?」
悠斗は一気に力が抜けたように、座り込んだ。
「普通、ネコだのタチだの書いてあれば、セックスフレンドになろうってことだろー?」
夏紀は驚いて言った。
「え?そ・・・そうなの?知らなかったよ。ごめん・・・。実は僕、そういうのにメールしたのって初めてなんだよ。」
なんじゃそりゃー!?と悠斗は思わず口に出すところだった。
けれど、夏紀の困った顔を見ていたら、だんだんおかしくなってきて、吹き出してしまった。
「あんた・・・面白すぎっ!」
夏紀もつられて笑い出す。
「何かおかしいよね、僕たちお互いに勘違いしてたんだもん。」
「ホント、笑っちゃうぜ。」
ひとしきり笑ったら、悠斗のお腹がグゥーとなった。
「ヒトナリくん、お腹が空いてるの?」
夏紀が聞いてきた。
「性欲が消えたから、食欲が来ちゃったみたい。」
「僕、何か作ろうか?」
悠斗が驚く。
「料理出来るの?」
「まあね、1人暮らしが長いからね。」
そう言うと、キッチンで色々物色し始める。
ー俺もずっと1人だけど、料理なんか作れないや・・・。
悠斗は夏紀を感心した。

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