Page5

「パスタでいいかな？チャーハンとかだと今からごはん炊かなくちゃならないから。」
夏紀が大きめの鍋に手をかけながら聞いてきた。
「俺は食えればなんでも・・・。」
悠斗はあまり食べ物に執着がない。
「じゃあ、少し待っててね。」
夏紀が鍋を火にかけて、ニンニクを取り出して切り始めた。
悠斗はビールを口に含んで夏紀を眺めている。
「なあ、あんた料理好きなのか？」
「そんなことないよ。簡単な物しか作れないし。」
悠斗が声を掛けると、なにやら包丁を動かしながら夏紀が答える。
「ふーん・・・。」
悠斗は何もすることがなく、ボーッっとしている。
混んだ夜の電車の中で外を眺めている時の無心とは違う、無心。
しばらくすると、夏紀が皿を持ってきた。
「はい、出来たよ。どうぞ。」
そこには香りの良い、ペペロンチーノが載せられている。
しかもいつのまにやら作ったサラダまで別の皿に盛られていた。
「すげーじゃん！いただきまーす。」
一口食べて、悠斗は感動の声を漏らす。
「うまい！あんた、料理うまいじゃん。」
「そう？そう言ってもらえると、嬉しいね。」
夏紀が照れた顔で言った。
「ところでヒトナリくん、さっき見た感じじゃ、君ガリガリじゃないか？」
「え？」
いきなりそう言われたので、悠斗はびっくりしてパスタを口に入れながら顔を上げた。
「ちゃんと食事してるの？」
「いや・・・、俺自分じゃ料理出来ないし、ほとんどコンビニかラーメンかな。」
「だめだよ、そんなんじゃ。全然栄養、採れてないじゃないか。」
「はあ。」
説教をされてしまった。
悠斗はこんな風に注意を受けるのは久し振りだ。
「あんたって学校の先生か何か？」
「え？違うよ、何で？」
「別に・・・そんな気がしただけ。」
言い方が教師っぽいと、さっきから悠斗は思っていたのだ。
もう殆ど平らげたお皿をフォークで遊んでいたが、悠斗は思い切って聞いてみた。
「・・・なあ、あんた、本当にゲイなの？」
「え？」
夏紀の顔が赤くなっていくのが解る。
「な・・・何でそんなこと聞くの？」
「だって、見てるとノンケっぽく感じるからさ。」
夏紀はその言葉にしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「自覚したのは・・・２年前なんだ。」
「２年前？随分遅かったんだなー。」
悠斗が驚きの声を上げる。
「それまで、女の子とも付き合ったりしたんだけど・・・でも、だめだったんだ・・・。その・・・」
「ああ、勃たなかったわけね。」
悠斗がはっきり言うと、夏紀は顔を上げて真っ赤になったが、やがて顔を下に向けて続けた。
「それで、社会人になって２年目に新人の男の子が入って来たんだけど、その子が凄くいい子でさ、素直で明るくて、みんなに可愛がられてたんだ。そしたら、いつの間にかその子の存在が僕の中でどんどん大きくなっちゃって・・・気付いたら好きになってたんだ。だから・・・、辛くなって半年前にそこ辞めて家も引っ越した。」
そこまで言うと、夏紀は大きなため息を漏らした。
悠斗はそこに疑問をぶつける。
「そいつに告らなかったの？」
夏紀は目を丸めて、
「そ・・・そんなの無理に決まってるじゃないか。相手は彼女もいる普通の男なんだよ？」
と否定をする。
「ばっかじゃねーの？もしかしたら、そいつバイだったかもしれないじゃん。」
悠斗が呆れて言った。
夏紀は信じられないという顔をする。
「そんなわけないだろ？」
「何でわかんの？確かめたわけじゃないんだろ？だいたいさー、もとノンケのホモなんていっぱいいるぜ？」
悠斗が問いつめると、夏紀は黙りこんだ。
「そうやって逃げてばっかいるのって、良くないんじゃないの？」
夏紀はそう悠斗に言われて、一瞬怒った表情を見せたが、すぐにしゅんとなって言った。
「そうだね・・・ヒトナリくんの言う通りだよ、意気地がないんだ。」
目にも明らかに夏紀が落ち込んでいるのが解る。
悠斗は別にいじめたかった訳ではなかったのだが、ちょっと言い過ぎたかと思い、頭をぽりぽりかいて、
「初めて会った奴とここまで話したの初めてだよ。」
と声を掛ける。
夏紀が顔を上げる。
「あんたがそんなに話してくれたんじゃ、俺も言わないわけにいかないよな。」
「な・・・何を？」

BACK←　→NEXT