だるい・・・だるすぎる・・・。
頭が痛い・・・腰も痛い・・・。
腰!?
何で腰が痛いんだ? それよりもここは一体何処なんだ?
まだぼんやりとしている頭で考えようとしたが、思い出せない。
「・・・うーん・・・。」
何?
今、何か聞こえたような・・・。
そう思って隣を見ると、誰かがいる。
ああ、そうか、可南子と一緒だったんだっけ?
「可南子・・・。」
横で眠っている耳元に声を掛けてぎょっとした。
可南子じゃない・・・! 誰だ?
いや、問題は隣にいるのは、どう見ても男じゃないいか!?
というか、俺はこいつをどっかで見たことあるぞ。
何処だっけ?ーああ、会社だ。
会社!?
そこまで考えて、俺はやっと完全に目覚めた。
こっ・・・こいつはっ、俺の・・・俺の部下の・・・。
「山岸!」
思わずでっかい声を出してしまった。
その声に山岸の瞼が開いた。
「・・・おはよーございます・・・主任・・・。」
奴が眩しそうな笑顔を俺に向けて挨拶をしてきた。
何で山岸が・・・?
何で2人で同じベッドにいるんだ?
何で2人とも裸なんだ!?
俺の頭の中は何が何だかわからず、パニックを起こしている。
「ど・・・どうして・・・。」
「あれー? 主任てば覚えてないんですか?」
・・・覚えてない・・・。
俺は首を横にブンブン振った。
「夕べはあんなに燃えたのに〜。」
山岸はニヤニヤしながら俺を見ている。
燃えた!? 何がだ?
俺の額からじっとりと脂汗が滲み出てきて、どんどん酷くなってくる頭痛と戦いながら、昨日の事を考えていた。
あれは、確か残業で夜も9時を回った頃だったか・・・。
俺は仕事とプライベートは完全に分けるものだと考えている。
だから例え夕べの食事を可南子としている時に、突然別れ話を一方的に言われ、まだ食べ終わっていないうちから彼女が席を立ち、その背中を見送ったとしても、次の日の仕事に支障をきたす事は絶対にしない。
それは当然の事であり、周囲の人間にだって、俺が昨日女と別れたなんて解る訳がない。
というより、誰かと付き合ってるなんて言った事もないし、訊かれた事もない。
可南子とは高校の時に同じクラスで、3年前のクラス会で再会してからの付き合いになる。
昔から可南子はどちらかというと目立つ部類の女だった。
高校時代も付き合ってた奴がいて、それも1人や2人ではない。
しかし、俺たちが付き合い始めたのはもうそろそろ大台になろうかという年齢だったので、何となく俺は可南子と結婚するもんだと思い込んでいた。
それが昨日、いきなりだ。 一言「私、今、他に付き合ってる人がいるの。 だから別れましょう。」 ときたもんだ。
俺は二股を掛けられていたと言うことだ。
しかも俺より浮気相手を可南子は選んだ事になる。
振られた事よりもそいつに負けた事の方がショックだった。
そう・・・こうなってからよくよく考えると、俺は本当に可南子が好きだったのか、それとも惰性で付き合ってたのか解らなくなってしまった。
・・・振られて当然だ・・・。
女ってやつはそう言うことは敏感になる生き物だからな。
「・・・任・・・、主任。 聞こえてますか?」
頭の上から声が聞こえてきた。
視線をそっちへ向けると、山岸が立っていて、コーヒーを2つ持っている。
「ああ、どうした?」
俺の肩書きは主任だが、営業部には主任と呼ばれる人間は4人もいて、俺の直属の部下は山岸と田辺しかいない。
要するに主任とは名ばかりの肩書きだ。 手当なんて3000円しかない。
しかもやたら残業が増えてきやがるし。 勘弁してくれ、マジで。
今、このフロアーにいるのは山岸と俺だけになっていた。
「そんなに根詰めない方がいいですよ。 あ、コーヒーどうぞ。」
「ああ、すまない。」
山岸が差し出した紙コップに入ったコーヒーを受け取った。
飲むと甘くて温くて今イチ旨くない。
俺はブラックが好きなのだ。
「主任・・・今日、どうかしたんですか?」
「どうって・・・何がだ?」
「いつもと何か違いますよ、何て言うか・・・ムリして仕事してる様に見えるんスけど。」
内心、ギクッとした。
俺は今日もいつもと変わりなく、完璧に振る舞ったつもりだった。
会社の連中だって絶対に何も解らなかったはずだ。
なのに何故こいつは・・・?
「別に、いつも通りの仕事をしてるだけだ。」
嘘ではない。 少なくとも俺はそう思う。
「そうッスかー? おっかしいなぁ。」
山岸は首をかしげながら俺のデスクを覗き込んだ。
「・・・何だ?」
他人に机を見られるのは好きじゃない、ここは自分の領域の様な気がするから。
「主任の仕事、もう終わりですよね? ・・・これから何か予定でも入ってますか?」
「いや・・・別に無いが。」
悪かったな、どうせ俺は振られちまったよ。
これからは毎日仕事と家の往復だけでおわっちまう。
あーやだやだ、この年になって女っ気もなく、色気も何にもない生活になっちまうのか・・・。
30も過ぎると女と出会う機会だって激減する。
かと言って風俗になんか行く気にもならない。
入社してすぐに今の課長に一回だけ連れて行かれた事があるが、最悪だった。
相手は仕事としてやってるだけだし、笑顔のウラに「男ってバカね〜。」という表情が見てとれちまって、俺は途中から虚しくなって結局最後までイクことが出来なかった。
二度と思い出したくない記憶だ。
「もし良かったら、今から飲みでも行きませんか?」
山岸がニコニコとしながら言ってきた。
そうだな・・・家に帰ってもすることがあるわけでもないし・・・。
俺は余り会社の人間とは飲みに行かない事にしている。
社外でまで気を遣うのはまっぴらだからだ。
しかし、今日は気分もむしゃくしゃしてるし、家にもなんとなく帰りたくない気分だった。
「別に構わんが・・・。」
「マジっすかー? 近くに旨い店があるんスよ。 そこ行きましょう!」
「ああ・・・。」
奴は嬉しそうだ。
俺は何処だっていい。
飲めりゃあ、何だっていいんだ、特に今日は・・・。
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