NO.3
「大丈夫ですかー? 主任。」
そう言われてぼーっとしながら周りを見渡した。
「・・・ここ・・・何処だ・・・?」
俺は今、猛烈に酔っている。
微かに山岸が視界に入ってきた。
「ホテルですよ。 主任、酔っちゃって気分悪そうにしてたので少し休んだ方がいいかと思いまして。」
「ああ・・・そうか・・・。」
気付けば苦しく無いようにスーツとネクタイが外されていた。
「はい、水です。 少しは良くなるかも。」
山岸がコップに入れて俺に差し出した。
それを一気に飲んだが、火照りはまだ醒めてくれない。
ふーっと息を吐いて寝かされていたベッドに横になる。
「・・・主任・・・どうしてそんなに無防備なんスか・・・?」
「・・・何・・・?」
山岸が何を言ってるのかよく解らない。
「俺は、男なんですよ、そんな色っぽい顔で見つめられたらどうにかなっちゃいそうだ。」
「・・・色っぽい・・・?」
「そうですよ、主任。 自分の事、全然解ってないんですね。」
何言ってんだ? こいつは・・・。
まあ、いいや。 それよりもゆっくり眠りたいんだ。
俺が目をつぶった時、何か柔らかい物が唇に触れた。
・・・・・・?
「・・・何だ・・・?」
「・・・主任・・・俺、主任が好きです・・・。」
目を開けると、山岸の顔が目の前にあった。
真剣な眼差しで俺を見ている。
「・・・俺は男だぞ・・・。」
「俺も男ですよ。」
「そうだな・・・。」
何を当たり前な事を言ってるんだろう?
「でも、好きですよ・・・主任。」
「ああ、そうか・・・。」
何かどうでも良くなってきた。
頭がふらふらしているし、身体中酒の所為で暑くて死にそうだ。
「み・・・水くれ・・・。」
「水ですか? 待ってて下さい。」
暫くしてさっきの柔らかい物が唇に触れたかと思うと、冷たい液体が俺の口腔内に流れてきた。
「・・・んん・・・。」
ごくりとそれを飲み干す。
「おいしいですか?」
「ああ・・・。」
「良かった・・・。」
・・・あれ・・・? 何か身体が重い・・・。
「主任・・・もう俺、ダメです・・・。」
何がダメなんだ?
それにしても人の重さを感じるってこんなに心地よかったっけ・・・?
可南子とはいつだって俺が上になっていたから、人の体重が安心出来るなんて思ってもみなかった。
何だかとっても気持ちいい・・・。
「・・・主任・・・。」
耳元で囁かれる声もイイ感じだ。
「・・・暫く・・・このままで・・・。」
俺は自分の腕を山岸の背中に回して、この心地よさを味わっていたいと思った。
「しゅ・・・主任・・・なんつー事を・・・。」
山岸が口を押さえてもごもごしている。
「ダメなのか?」
「いえ・・・そうじゃなくて・・・俺、もう押さえられません・・・主任、やらせて頂きます。」
・・・は・・・? やる・・・? やるって何を・・・?
まあ、いいか・・・この重さを感じていられるのならば・・・。
何かシャツを脱がされてる気もするが、どーでもいいや・・・。
もう・・・何でも・・・いい・・・。
「思い出しましかー? 主任。」
煙草を旨そうにふかしている山岸の横で、俺は頭を抱え込んだまま蒼白になっている。
汗もだくだくに流れているが、それを拭いている余裕も俺には無い。
嘘だろう!? 俺・・・俺は昨日、山岸と・・・山岸と・・・やっちまったのか・・・?
「そ・・・その・・・夕べは・・・その・・・お前と・・・。」
「主任てば凄く積極的なんスねー。 俺興奮しちゃいましたよ。」
きっ・・・聞きたく無かった・・・俺は部下とやっちまった!
しかもこいつは男だ。
頭がガンガンする。
2日酔いの為かショックの所為か解らない。
「水でも飲みます?」
山岸が差し出してきた水を無言で受け取って飲もうとした瞬間、思い出した。
昨日、最後に飲んだ水って・・・あれって口移しで飲まされた気がする。
酔っていたとはいえ、何でこんな事になっちまったんだ?
いくら考えてもまるで思考が停止したように頭の中が真っ白になっている。
顔を上げて山岸を見ると、もうスーツを着て、ネクタイまで締め始めていた。
そう言えば今日はまだ木曜日だ。
「今、何時なんだ?」
腕時計を見ながら、奴が答えた。
「え〜と、8時25分ですね。」
げっ! あと35分しかない。
「まっ、待て! 俺も支度しなきゃ。」
そう言ってベッドから出ようとすると、下腹部に鈍痛が走り、俺はそのまま床に転げ落ちた。
慌てて立ち上がろうとするが、起きあがれない。
「大丈夫ですか? ムリしないほうがいいですよ。 ここ、チェックアウトが11時までなんでそれまでゆっくりして下さい。」
山岸が手を差し出して俺をベッドに寝かせる。
そんな馬鹿な!
俺は山岸にやられたわけか?
「じゃ、俺は行きますけど・・・あ、ここってタクシー飛ばせば15分くらいで会社に着きますんで。」
「・・・・・・。」
俺が黙ってると山岸が近づいてきた。
「昨日は主任、すげー良かったですよ。 3回もしちゃいました。」
とぬかしながら、キスしやがった!
「ふ・・・ふざけんな!!」
俺の怒鳴り声を聞きながら、はははと笑って部屋を出て行った。
・・・3回!? あの野郎、3回もしやがったのか!?
どうりでこんなに痛いはずだ。
あのケダモノが!!
大体俺は男だぞ。 何考えてるんだ!?
しかも会社に行けばイヤでも山岸の顔を見なけりゃならない。
いや・・・それよりも今はこの痛みをなんとかするのが先だ・・・。
今日は人生最悪の日になりそうだ・・・。
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