snog to me NO.1

―――― 僕達はフリーセックス主義者だ。



バタン、とニック所有のボロい自動車のドアを閉じると運転席にいる彼と目が合った。
「亮が帰っちゃって寂しい?」
「ああ、あいつ一緒に住んでいても疲れなくてイイ奴だったよ。 ・・・そうだな・・・これから家に帰るのが少し寂しいかもな」
亮は2年前からニックと部屋をシェアしていた日本人の留学生だ。
僕がニックと出会ったのが1年半前、初めて亮に逢った時は2人がデキてるのかと思う程仲が良くて自分は単なる遊び相手なのかと暫く考え込んだりした事もあったっけ。
そして今日、彼が留学期間を終えて日本に帰る為、ヒースロー空港まで見送ったその帰り。

亮は僕が知っているロンドン在住のアジア人の中でも魅力的な男だと思う。
思いついたように延ばしてた髭は似合っているとは言えなかったけど、適度な男臭さと愛嬌できっとその手の店に行ったら相手に事欠かないに違いない。
「まさか亮にまで手を出してないだろうね?」
「オレのタイプを知ってるだろ? まぁ、でも昨日の夜2人で酒飲んでキスしてやったけど」
「ニック、君って奴は・・・」
はぁ、とため息をつく。
ニックは本当に手が早い。
好みのタイプを見つけると挨拶変わりにキスをして、脈があるとすぐに手を出す。
そうそう、1年前、亮の恋人にニックがキスした時はそりゃあ大変だった。
信じられない事に亮の恋人・・・ノブはそれまでセックスはおろかキスもした経験が無かったんだそうだ。
そんなチェリーボーイがいきなり目の前の黒人に唇を奪われたモンだから怖がっちゃってニックとは目を合わせられなかったらしい。
ノブはニックの好みど真ん中、どう見てもまだ十代前半にしか見えなくて、あれで亮と同じ21歳だなんて信じられなかった。
アジア人が幼く見えるって本当なんだ。
「何笑ってるんだクリス」
「いや・・・ノブを思い出しちゃって」
「あ〜、ノブ可愛かったよな〜。 亮には勿体ねぇ」
「僕も亮に言われたよ。 『クリスがニックみたいなのと何で付き合ってるんだ?』ってさ」
「あの野郎」
「そう言えば気付いてた? あのペンダント、ずっと亮はしているんだよ」

僕は駆け出しのアクセサリーデザイナー、それを知った亮がある日言ってきた。
「あのさ・・・クリスに作って欲しいモンがあるんだけどいいか?」
頼まれたのは「R」と「N」それぞれのイニシャルの形をしたチェーンネックレス。
出来上がった2つのペンダントを手にした亮の
「サンキュー、クリス。 渡せるかわかんねーけど祈っててくれ」
と、らしくない弱気な発言が不思議だった。
訊くとハイスクールからもう5年も密かに想い続けているらしい。 そんな気が遠くなりそうな片想いなんて僕には考えられない。
日本人はそんなにシャイなのか? 

「勿論気付いてたさ。 あいつ見かけに寄らずロマンチストだよなぁ」
「あはは。 さ、帰ろうニック」
「ああハニー、その前に熱いキスしてくれよ」
僕はニックの黒人特有の分厚い唇が好きだ。 吸うと柔らかくて気持ちいいし、吸われると飲み込まれそうになるのも悪くない。
「ん・・・・・・」
キスを夢中でしている最中、僕は亮が別れ際に言ったヒトコトをいきなり思い出してしまった。


『なぁ、クリス、お前らさ、いつまでもそんな関係でいいのか? ちゃんとパートナーにならなくていいのか?』


ロンドンはゲイにとても優しい街だ。
毎年華やかなゲイパレードが行われているし、SOHOを歩けば仲間にぶつかる。
そしてゲイパブはどこにでも点在している。
僕がニックと出会ったのもゲイパブだ。
タイプの男を見つけたら最初はじっと見つめる、相手も見つめ返してきたら今度は他愛もない会話から探り合い、その後の駆け引き、そしてベッドイン。
そんないつもの行動パターンで終わる筈だった次の朝、ニックは僕を抱きしめながら言った。

「いつか自分の店を持って客にオレの料理を食べて貰うのさ。 ああ、お前は何て幸せそうな顔でオレの手料理を頬張っているんだ? その笑顔をもっと見せてくれないか?」

大げさなボディランゲージで僕を笑わせた彼が何だかとても愛おしくなり、次に逢う約束を決めた。



「ダメだよ、ニック・・・家に帰るまでダメだ」
ニックが助手席のシートを倒して僕にのし掛かってきたから焦って彼の背中を引っ張った。
「クリス・・・もう6日間してないんだ・・・すぐ終わらせるから」
別にカーセックスがイヤと言う訳じゃない。 むしろ狭くて誰かに見られるかもしれないと言うスリルは興奮するんだけどね、空港の前じゃ人が多すぎて見せ物になっちゃうじゃないか。
「よく言うよ。 4日前に君は幼顔の可愛い金髪としてるだろ?」
僕も3日前に黒髪の格好いいビジネスマンとしたけどね。
僕らはお互いとても忙しくて、逢えるのは月に4〜6日間くらいしかないから肌の温もりを他に求めるのは仕方のない事だ。
亮の様に1年間離ればなれになって、その間に誰とも寝ないだなんて僕には到底理解し難い。
たまに国際電話でノブとテレフォンセックスしてたのは知ってたけど、触れられないならそんなのは所詮マスターベーションと一緒じゃないのか?

「だからさ、部屋に帰ったら久しぶりに朝までしようよ」
僕が拒んだから拗ねて唇を尖らせているニックに微笑みながら提案した。
「チッ。 コレを家まで持たせろってのか? お前は何て残酷なんだ。 いいぜ、その変わりお前が泣いても止めないからな」
「怖いなぁ」
そう言った僕が楽しそうなのはニックにも解っているんだろうなぁ。
早く僕の渇きを君で満たして欲しい。




玄関に入るなりニックはジーンズのファスナーを開け、僕の頭を股間に押しつけて咥えさせた。
「んっ・・・ぐ・・・」
「いいぜ・・・クリス・・・最高だ」
ドアを背に、ニックは僕が奏でる快感に酔って恍惚の表情を浮かべている。
その顔が堪らない。
黒く、そして僕の舌と唾液によって濡れていくニックのそれが堪らない。
ああ、僕はこんなにも君が愛おしいんだ。 
身体だけの関係だったらこんな気持ちにはならないだろう?
3日前に肌を重ねたビジネスマンに同じ事をしたけれど、やっぱり違うんだ。
君とじゃなければ心まで満たされるなんてない。

「出るぞ、クリス・・・っ」
「ん・・・・・・」
その証拠に他の奴等の出したモノなんか絶対飲むなんてしないんだよ、ニック。
青臭くて苦い精液が喉を通ってゴクッと音がする。 さすがにゆっくりと味わうのは不可能だけど、その行為は僕にとって愛の証なんだと思う。
「・・・ニ・・・ック・・・」
「何ていやらしい顔なんだハニー・・・そんな顔見せられたらすぐにおっ勃っちまう」
ニックは猥褻な言葉をワザと僕に投げかけるのが好きらしい。
そうだね、君が喜ぶならそれに付き合うよ。
「それじゃあ、そのペニスが立派になる前にベッドに連れていってくれないか? ダーリン」

 NOVELTOP← →NEXT