ギシギシとベッドの軋む音がニックの動きと僕の喘ぎに併せて聞こえる。
「あっ・・・あっ・・・」
突かれる度に痛みと喜びで身体が痺れてどうにかなりそうなくらいの幸せが襲ってくる。
「んんっ ニック・・・もっと・・・もっと激しく・・・っ」
ニックは僕の懇願にひときわ派手に腰を振って答えてくれた。
黒い肌に浮かぶ汗は何てセクシーなんだ。
僕は右手で自分自身を扱いて痛みを快感に変換し、ニックは僕の太腿を持ち上げ肩に乗せ、それまでよりもっと深く繋がる体勢に変えた。
肌の色は違うのにこんなにも僕らは求め合う。
「凄いニック・・・うあっ あっ もうイっちゃ・・・っ」
「まだだクリス。 もっと啼けよ。 もう亮もいないんだぜ? 遠慮すんな」
「daft!」
いつだって遠慮なんて考える余地なんか与えてくれないくせに。
・・・身体がガクガクする・・・中心が熱くて溶けてしまいそうな感覚に意識が朦朧とする・・・「ニック・・・早く・・・早く出させてくれ・・・っ」
僕はそう叫びたかったのに、耳から聞こえてくるのは過呼吸が繰り出す喘ぎだけ。
数え切れないくらいしてるのにどうしていつも余裕がないんだろう?
どうして飽きないんだろう?
どうしてニックなんだろう?
今まで付き合ってきた男達と何が違うんだろうか?
確かに黒人と付き合うのは初めてだったし、最初にセックスした時は好奇心の方が勝っていたのも事実だ。
図体はデカいし、タトゥーはしてるし、パッと見はどこかのストリートギャングなのにコックを目指すギャップが可愛いと思う。
だけどそれだけじゃこの気持ちの説明にこれっぽっちもなっていないんじゃないのか?
「クリス・・・愛してる・・・っ」
飛んで行きそうな意識の中ではニックの愛の言葉と行為だけが僕を支える唯一の存在。
「ぼ・・・くも・・・んあっ はっ」
ニック、愛してるよ・・・。
身体がニックに支配されて上手く言葉が発せられない。
毎回やる事は同じなのに毎回違うんだ。
どこが? と訊かれたら答えられないけれど、身体がそう感じる。
だからきっと、それが真実。
なのに・・・・・・達する瞬間に浮かんだのは亮に言われたあの言葉。
『ちゃんとパートナーにならなくていいのか?』
ちゃんとってどういう意味なんだよ亮。 ニックと僕はパートナーだろ?
ノブだって僕らを見て羨ましがってたって言ってたじゃないか。
『なぁ、クリス、お前らさ、いつまでもそんな関係でいいのか?』
ニックと僕はフリーセックス主義者だ。
それは付き合う時に確認しあったし、逢える日だってそんなにあるワケじゃないから他の人間に温もりを求めるのは仕方のない事だ。
心が繋がっていればそれでいい・・・・・・ニックが可愛い誰かと寝たってそれは単なる捌け口って事くらい僕だって解ってる。
・・・・・・頭では解ってる・・・・・・。
―――――――――― OK
―――― 降参だ ――――
どんなに離れていてもお互いしか求め合わない亮とノブが羨ましい。
僕だって本当はニックしか欲しくないんだ。 潔く認めるよ。
ビジネスマンと寝たのだって只の当てつけさ。
だからって今更どの面下げて言える?
そんな事を口にしたら縛られるのが大嫌いなニックの事だ、きっと綺麗さっぱり別れるに決まっている。
冗談じゃない。 彼が僕から離れて行くだなんて想像しただけで寒気がする。
・・・・・・僕はいつからこんなに臆病になってしまったんだろう。
「どうした? クリス」
「・・・・・・え?」
汗ばんだ褐色の胸を指でなぞっているとそんな事を訊いてきた。
どうって何が・・・?
「そんなに激しかったか? それとも良すぎて泣いているのか?」
「―――――――― っ」
涙なんて最近流した記憶がないくらいなのにこんな状況で・・・自分で自分が滑稽だ。
だけど本当の理由なんて言える訳がない。
ニックに捨てられるのが怖いだなんて。
「・・・両方・・・かな・・・」
「嘘付け。 そんな顔じゃなかったぜ。 なぁ、クリス、一体何を考えてる?」
「・・・・・・」
ああ、どうして君はこういう時だけ鋭いんだい?
亮の所為だ。
別れ際にあんな事を言わなければ僕はずっとこのままニックとの関係を上手く立ち回れていた筈なのに。
「何でもない・・・亮がいなくなってちょっとだけ寂しいんだ、きっと・・・」
「Oh my god! クリスが亮とデキていたなんてあまりに残酷です」
芝居がかったアクションで胸に十字を切るニックに思わず吹き出してしまった。
「もう、そんな訳ないだろう? 亮は君と僕の大切な友達だ」
「あいつ、今頃ノブとやりたくてジェットの中で大きくしてるぜ」
ニヤッと笑った彼なりの慰め方に僕は瞳を伏せてこんなクールで優しい奴はいない、と改めてこの男の魅力を噛みしめながら言った。
「・・・・・・shagging」
「お、言うなクリス。 お前だってスケベだろ」
「君ほどじゃないよ」
「あんなによがってた奴が言ってろ言ってろ。 ―――― 他の奴にもあんな顔見せてるのかと思うと面白くねぇなぁ」
「ニック・・・・・・・」
僕だって君が可愛い少年を連れ込んでるのかと思うと面白くないに決まってるじゃないか。
けれど喉に言葉が詰まって出てこない。
「それは最初に納得済みだろう? しょっちゅう逢える訳じゃないんだし、そしたら他人で身体を満たすしか」
「ここに住めよ、クリス」
「ないじゃ・・・―――― 何だって?」
耳を疑った。 ニックは何を言ってるんだ?
「亮が出て行っちまったから家賃がキツくなるし、何よりクリスの顔が毎日拝めるなんて最高だろう?」
「ニ・・・ック・・・」
思いもしなかったニックの誘いにまだ僕の思考回路は付いて行かない。
「結構前から考えていたんだぜ? 後押ししてくれたのは亮だけどな」
「亮・・・が・・・?」
・・・・・・そうか・・・僕にあんな事言うくらいなんだからニックにだって言ってるよな。
「おせっかいだな、彼は・・・」
「あいつはそういう奴だ。 オレは感謝している。 クリス、一緒になろう」
「でも・・・僕と一緒に住んだらもう他の子を連れ込めなくなるんだよ・・・?」
「何言ってるんだ? クリスとやれるなら他人なんか必要ないじゃないか」
けろっと言うニックが僕には信じられなかった。
あんなに自分のタイプばかりを家に連れ込んでセックスして・・・僕はニックの好みじゃない・・・可愛い顔でもなければ若くもない。
そう伝えるとニックは笑って言った。
「それはオレが本気だって証拠なんじゃないのか? お前こそオレはタイプじゃないだろう?」
確かに僕のタイプは頼りになる年上で、今まで付き合ったのはスーツが似合うビジネスマンが多かった。 しかも全員白人だ。
その場限りの相手なら東洋人も何人かいたけれど黒人はニック1人しか知らない。
「僕だって・・・君に本気だから・・・だから本当は・・・ん・・・」
ニックの唇が甘く僕の嫉妬を溶かしてくれる・・・・・・君が好きだ・・・・・・。
「クリス、オレに毎日English Breakfastを作ってくれ」
「いきなり何だい?」
「日本でプロポーズする時には「ミソスープを作ってくれ」って言う習慣があるって亮が言ってたからさ」
「へえ」
日本人にそんな習慣があるなんて知らなかった。 いつか亮もノブに言うのだろうか?
だけどさ、僕らはどちらかと言うと逆なんじゃないのか?
「ニック、それじゃあ僕には毎日美味しい夕食を作ってくれるかい?」
「ああ『To eat well in England you should have breakfast three times a day(
イングランドで美味しい食事にありつこうと思ったら朝食を三度食べることだ)』なんて言わせないくらい美味いモン作ってやるさ」
ゴメン、亮、訂正するよ。
亮のお陰で僕らは本当のパートナーになれるかもしれない。 君が友達で本当に良かった・・・。
いつかニックが店を持てる様になったら、僕が1人前のアクセサリーデザイナーになったら、亮とノブに逢いに日本に行ってみようと思う。
「取りあえず・・・今夜は朝まで寝かせないぜ」
「ああ、覚悟しているよ、ダーリン」
―――― 僕達はフリーセックス主義者 ―――― だった。
END
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「スーツケースとパブ」に出てきたもう1組のゲイカップルニックとクリスの話を書きたくなっちゃいました。
2人がイギリス人なのでそれを強調したら恥ずかしいセリフが多いです(笑)
小説内にある「daft!」とは「バカ!」、「shagging」とは「スケベ」と言う意味を含むブリティッシュスラング、タイトルの「snog
to me」とは「(ディープ)キスをして」とか「愛撫して」って意味です。
(20060712)
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