Welcome home

亮の気配を感じながら、僕は黙りこくって先に階段を登る。
ドキドキしてる心臓と後ろにいる意地悪な恋人への悔しさで、手すりの木の感触が汗でじわりと湿ってきて、掴むのを途中で止めた。

「延照・・・」
部屋のドアを開いて中に入った途端、後ろから抱きしめられた。
ああ、亮の匂いだ・・・日向(ひなた)と煙草の交ざった健康なんだか不健康なんだか解らない、でも僕の大好きな香り。
涙が出そうになってグッと堪える。
「怒ってるのか?」
1年ぶりに耳元で囁かれる甘い声。 電話とは違う、息の掛かる距離で。
なのに僕はまだ素直になれなくて、そんな自分がもどかしくて堪らない。
「・・・・・・酷いよ・・・不意打ちもいいとこじゃないか・・・」
「延照・・・」
笑顔で「おかえりなさい」って言いたかったのに・・・いっぱい練習したのに・・・泣かない様にしようって、強くなろうって決めたのに・・・。
そんな決心も空しく、ぽたぽたと絨毯が雫で染みを作り始めた。
「ずるい・・・ばか・・・亮のばか・・・ばかー・・・」
「延照っ」
身体を回転させられて、今度は正面から亮は僕を抱きしめた。
「お前の驚く顔が見たかったから・・・ごめん、まさか泣くなんて思わなくて」
「ひっく・・・ばか・・・ひっく」
嗚咽と責める言葉が同時に出てきて何だかまぬけだ。
帰ってきてくれてすっごく嬉しいのに・・・「ばか」って言ってばっかり。
ごめんね・・・僕も意地悪だ。 こんなに強い力で抱きしめられているのに。
・・・背中と頭をぎゅってされて心地良い・・・。
「あ・・・・・・」
ちゅ、ちゅ、と唇で涙を吸い始める亮。
弾力のある男らしい感触が瞼に、頬に。
そして。

「逢いたかった・・・」
唇に重なった。
1年ぶりのキス・・・ずっと、ずっと待ち望んでいたその唇。
焦れて僕の口の中は熱くて、もっとして、って心が叫んでいる。
もっと甘いとろける様なキスをして。
「僕だって逢い・・・んんっ」
電話じゃいくら語り合っても味わえなかった幸福感が身体中に染み込んで、一気に周りの温度が上昇していく。
亮の舌が僕の前歯をなぞり、裏をなぞり・・・我慢出来なくて自分から舌を絡めた。
「ふ・・・んん・・・」
吸われてちょっと痛かったから僕も吸い返すと、更に奥へと入ってきて、もう息をするのも忘れそうなほど貪りあう。
途中で腰が立たなくなりそうになり、キスをしたままどちらともなく座り込んだ。
頭がぼうっとしてきて、思考が止まる。
「っ・・・はぁ・・・」
甘い甘い離れていた時間の想いが詰まったくちづけ。 どれくらい溶け合っていたんだろう?
「やっとキス出来たな・・・この1年すっげー辛かった・・・」
「亮・・・・・・」
僕もだよ・・・って言いたかったけど、まだ息が上がって上手く話せない。
亮はちゃんとキスしてる間も息をしてたみたい・・・ずるいな。
気付くと亮に僕がまたがっている格好になっていて、恥ずかしくなって慌てて離れようとしたけど
「このままでいいよ」
って。
でも・・・ちょっと・・・・・・キツイかも・・・・・・。
「延照」
「な・・・何・・・?」
「勃ってる」
「なっ!」
くすっと笑われてカァーッとなった。 だってしょうがないじゃないか、1年ぶりにこんなキスされたら・・・好きな人にされたら・・・。
火照って俯いた僕の目に飛び込んできたのは・・・・・・。
「りょ・・・亮だって!! 亮だってたっ・・・勃って・・・るじゃないか・・・っ」
「健康な男ですから」
当然だろ?って顔をする。
「〜〜〜〜っ」
同じなのにどうして僕だけ恥ずかしい思いをしなくちゃならないんだよーっ。
「嬉しいけどな、俺は」
「何がだよ・・・っ」
「お前もちゃんと感じてくれていたんだもんな」
そう言って楽しそうに頬をスリスリしてきて、悔しいけれど嬉しい・・・やっぱり今も亮に踊らされている。
だけど・・・。
「痛っ・・・痛いってば亮」
飛行機に12時間乗って、更に僕と逢うまでに数時間を要した亮の顔にはうっすらと髭が生えていて、チクチクと言うかジョリジョリして痛い。
「あはは、お前の顔真っ赤になっちまった」
「ええ〜っ!?」
「悪かった」
言いながらコツンと額を合わせてくる。 亮はこういう文句を言わせないタイミングがすっごく上手くて卑怯なんだ。 それに乗せられる自分もどうかと思うけど。
「いいよ、もう・・・」

こんな時間をどんなに待ちわびていただろう、亮の腕に抱きしめられて抱きしめて・・・きっとキスしなくてもそれだけで感じてた。
去年ロンドンに行かなかったらお互いずっと気持ちを隠して友達でいたかもしれない。
ねぇ、亮、今とってもとっても幸せだよ・・・・・・。

「あれ?」
「?」
ふいに亮が顔を上げて目を前に向けた。
「あっ!!」
しまったっ! 亮が来る前に片づけようと思っていた写真がこっちを見ている。
「あれは・・・っ その・・・」
何か最もな事でも言わないと笑われるっ。
「すっげー嬉しいっ」
「明日までに ―――― え・・・?」
亮を見るとまるでおもちゃを見つけた少年みたいにキラキラ輝いている。
「わ・・・笑わないの・・・?」
子供っぽいって、乙女チックだって、てっきり笑われるかと思ったのに意外だった。
「何で笑うんだよ? 向こうじゃこんなの普通だぜ? けど延照ってそういう事しなさそうだったし」
言いながらまたちゅ、ってキスしてくる。 そっか・・・亮は嬉しいんだ・・・。
そう思ったら僕も嬉しくなった。 片づけなくて良かった・・・僕って現金だ。
「延照・・・」
亮は熱っぽい目で真っ直ぐに僕を見て ―――― 顎を舐めてきた。
「あ・・・・・・り・・・亮」
ゾクリと背中に電気が走り、その唇がペンダントに辿り着くと僕は声を上げてしまった。
「ちゃんと・・・付けてくれてるんだ・・・」
「う・・・うん・・・」
「延照・・・」
亮の手が僕の ――――。
「やっ・・・まっ・・・待って・・・待って 亮」
言葉とは裏腹に、触って欲しいと思う自分が確かにいて・・・けれど1階には母さんがいるし、そのうち父さんも帰って来る。
「待てない」
「ダメ・・・ダメだよ・・・あっ・・・」
本音はこのまま流されたい、亮の事だけを考えて、体温の重さを感じたい・・・。
どんどん熱くなっていく身体が理性を飛ばそうとするのを必死に堪えた。
「もし母さんに見られたら・・・きっと許してくれない・・・僕たちを一生認めてくれない・・・」
その言葉にピクッと動かしていた指が止まって亮の理性も戻した。
「・・・・・・悪い」
「はぁ・・・はぁ・・・」
亮は髪の毛を手でくしゃっとしてうなだれた。
「ガキだな・・・俺。 欲しいと思ったら見境がなくなる」
落ち込んでいる亮を見るのは初めてで、何だか可愛く見えたから両手で亮の頭を抱えた。
「そんな事ない・・・だってずっと・・・5年も待っててくれたじゃないか。 それに僕だって・・・凄く亮と・・・したいん・・・だよ」
今度は僕から唇に触れた。 激しいキスじゃ解らない柔らかい感触が心を満たしていく。
「亮が可愛いから我慢出来なかった」
ペロッと舌を出して笑うと、亮が「まいった」と顔をくしゃりとして笑う。
きっとその照れた顔、僕しか知らないんだよね。 そんな事が胸を弾ませる。
僕にしか見せない君をいっぱい見せて欲しい。
男らしくて格好いい亮も好きだけど、そうじゃない亮も僕には凄く魅力的なんだよ。
これからきっと2人で歩いて行くには大変な路(みち)が待っている。
だけど今はまだこんな幸福感を味わってもいいよね・・・?
だって亮が日本に帰ってきた日だし・・・・・・あっ!! 
僕は大切な事を忘れていた。 ちゃんとまだ言ってないじゃないか。
「あのね、亮・・・」
「うん?」
優しい微笑みで返事を待つ亮に、僕は深呼吸を1つして、そして最初に言う筈だった言葉を繋いだ。
「おかえりなさい」

END


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やっと!! やっと亮がロンドンから帰って参りましたー!!
最初はやっぱり甘々でしょう! って事で先ずはちゅ〜のみでゴメンナサイ(^^;
この直後の展開もあるのですが、それはまた今度(っていつになるんだ)

(20050714)