小説

ヤキモチの素描

鉛筆を走らせる周りを尻目に、悠斗は欠伸をひとつすると、
「お前・・・沢木ちゃんがこっち見てるぞ。」
隣で練り消しゴムをいじっていた石田が呆れて言った。
「だって〜、俺、デッサン嫌いなんだもん。」
眠くて目から涙まで出てきた。
「俺だってやだけどさー、今日はなんてたってヌードモデルが来てるんだぜ。」
そう言って、石田は目の前の足を組んでいる女性を見る。
「もうちょっとで見えそうなんだけどなぁ。」
「お前ら・・・ちゃんと描け。」
悠斗と石田が恐る恐る後ろを振り返ると、デッサン担当の沢木が顔をしかめて立っていた。
「悠斗の所為で見つかっちゃったじゃねーか。」
「ああ!?お前がしゃべってくるからだろ?」
罪のなすり合いをしてるのを見て、クラスメイトからクスクス笑い声が聞こえてくる。
「両方だ、お前らなぁ、モデルの人にも悪いと思わんのか?」
沢木がため息を漏らす。
「まあまあ、沢木ちゃん、血圧あがるよ。」
悠斗は笑って言った。
「誰の所為だ、まったく。」
沢木はこういう事は慣れているのか、苦笑してその場を離れて行った。
田といえばモデルに向かって、
「ごめんねー。」
と言って手を振っている。
その光景を見て、他の生徒にアドバイスをしていた沢木が石田を睨む。
「こえー。」
「なあ、4B借して。」
悠斗が手を出す。
「お前、そんくらい用意して来いよな。」
そう言いながら、石田は一本鉛筆を悠斗に渡す。
「ワリィな、買い忘れちゃってさ。」
その台詞で会話は中断し、その後は鉛筆のシャッシャッという音だけが教室に響いていた。
悠斗が通っているデザインの専門学校は、割と基礎をしっかりたたき込むので有名なのである。


昼休みになった教室の中で、近くのコンビニで買ってきたおにぎりを悠斗はパクついている。
「よくそれで持つよな。」
石田は、パンを3つとやきそばが入った袋と、おにぎり2個を見比べて言った。
「お前こそ、そんなに食ってるとデブになるぜ。」
「うるせーな。けど、どうしたんだよ?。」
石田が何を言ってるのかわからず、悠斗は聞き返した。
「何が?」
「だって、前は一週間のうちの半分出てくれば良い方だったのにさー、最近毎日来てんじゃんか。」
そう言われて、悠斗は愛しい夏紀を頭に浮かべた。
それだけで顔がニヤけてしまう。
「まーな、何て言うの?プライベートが充実してるって感じ?」
石田はそれを聞いて、ハッとしたように質問をしてきた。
「まさか、お前、彼氏が出来たのか!?」
悠斗は自分がゲイであることをクラスメイトには誰にも隠していない。
最初の親睦会の時に発表したからである。
初めは驚いていた人たちも、慣れてしまえば気にしなくなっていた。
石田はその顔を見てると、それに悠斗が答えなくても出来た事が解る。
「マジでー?なあ、どんな奴なんだよ。」
「どんなって・・・そーだなー、すっげー可愛いんだ。」
悠斗の言葉に石田は、はぁ?という顔をした。
「可愛いって・・・そいつ男だよな?」
「当たり前じゃん。」
「んじゃ、お前より年下なわけ?」
「6コ上。」
「6コって・・・26かよ、そいつ。」
「ああ。」
石田は、悠斗にこんな幸せそうな顔をさせられる人間に興味を持ってきた。
「写真とか持ってねーの?」
「なに?見たいのか?」
「ああ。どんな奴か見たい。」
そう言われて、悠斗は悪い気がしない。
「しょーがねーな。」
ポケットに入っていた携帯を取り出し、しばらくボタンを押していたが、画像が出てきたらしく、
「見せてやるよ、お前だけだぜ。」
と言って、石田の目の前に夏紀の映っている画像を見せた。
それを見た石田は、無言になった。
「な、可愛いだろ?」
悠斗は初めて人に夏紀を見せた照れくささで、相手の目が点になっていることに気付いていない。
「・・・これが、お前の彼氏?」
「だからそう言ってんじゃん。」
そこには携帯を向けられて、少し緊張している夏紀が写っている。
「どこが可愛いんだよ?オヤジじゃねーか。」
石田にはここに写っている、いかにも平凡そうな、ぼけた顔をした男が悠斗の彼氏だとはとても信じられなかった。
悠斗の好みはいわいるイケメンだと思っていたからだ。
「てめー、俺の夏紀さんに何て事言うんだ。キスするときの顔とか、照れてるときの顔とか、セックスしてるときの顔とか、全部可愛いんだ。」
そう言われて、石田は理解不能に陥った。
石田は根っからの女好きなので、悠斗がゲイなのは理解出来るまでも、セックスまでくると訳が解らない。
しかも、この男のどこが可愛いのかも石田の守備範囲を超えている。
「ちぇっ、いいんだよ、別に。俺だけ解ってればそれでさ。」
そう言って夏紀の写っている携帯を眺めながら、にへら〜としている悠斗を見て、石田は、
ー悠斗、お前キモすぎ・・・。
と思った。

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