空間温度 NO.2

僕だけが知っている掌と指先が誘(いざな)う、自分ではどうしようもない身体の痺れが僕を狂わせる。
「・・・はぁっ・・・・・・ん・・・」
亮だけが知っている幸せに零れる声。
凄く恥ずかしい筈なのに、どうして我慢出来ないんだろう?
「あっ・・・ダ・・・ダメ・・・そこ・・・っ」
「ここ? 延照、ここが気持ちいいのか?」
「っ・・・や・・・っ」
亮の無精髭が胸と擦れて・・・・・・何て言うか・・・。
「・・・・・・はっ・・・あ・・・」
無言でそこを何度も責められる。 感じてるのをちゃんと解って、楽しそうに愛おしそうにそんな僕を見ている亮。
「も・・・無理・・・・・・亮・・・お願いだから・・・」
ガクガクしてもう立ってられない・・・たったこれだけの事で足が痙攣を起こしてるみたいに震えていた。
「前より敏感になってる?」
「そんなの・・・わかんないよ・・・」

嘘。
本当はきっとそうなんだ。 離れていたこの1年、亮の事を考えて、ずっと抱きしめられたくて、電話では恥ずかしい事させられて・・・。
それまでの淡泊な自分が嘘みたいに、僕の身体は亮仕様に変えられちゃった。

僕を抱きしめたまま、亮はちょっとずつ身体を前に移動してシャワールームのガラスにぶつかった途端に、ふにゃんと、まるで腰が抜けたみたいに僕はしゃがみ込んでしまった。
「大丈夫か?」
「ん・・・・・・」
気遣ってくれる優しい指で僕のシャツのボタンを上から1つ、また1つと外されていくと心まで露わにされるみたいだ。
亮にはもう隠し事も何もない。 ずっと秘めていた内緒の気持ちは1年前に裸にされたから。

僕の着ている物を全て亮が剥ぎ取り、自分の着ているTシャツ、ジーンズ、トランクスも脱いで素っ裸になった2人・・・相変わらず均整の取れた筋肉が羨ましい。
銭湯でもない部屋の片隅、しかも亮が見ている前で下半身に何も着けていないと思うと、凄く心許(こころもと)なくなって来る。
おまけにさっきから・・・反応してるし・・・。
「ど・・・どうするの・・・?」
「お前にも気持ち良くなって貰いたいから」
そう言って僕の両足を持ち、亮の太腿に乗せたから、てっきりもうするんだと思ってぎゅっと目を瞑り、記憶している痛みを思い出し覚悟をした。

―――― え ―――― ?
感じたことのない感触が僕のそれに重なっている ―――― 亮は自分のモノと僕のモノを右手で一緒に掴んでいた。
「な・・・何・・・?」
恐る恐る訊くと答えるより先に手を動かし始め・・・・・・。
「あっ」
熱くて血流が感じられる・・・亮と僕の男の証が擦れて、掌に翻弄されて、身体の中心から言いようのない高ぶりが身体中を支配していく。
「一緒に達きたいんだ・・・延照」
「りょ・・・っ。 んっ・・・んっ」
「なあ・・・お前も触って・・・」
そっと僕の手を掴み、間に挟まれた熱を帯びた分身を握らせて、そのままゆっくりと2人で上下にスライドさせた。
「いいよ・・・延照・・・つ・・・っ」
亮が目を閉じて軽く唇を噛む。
どうしていいか解らないけど、亮が僕で感じてくれている・・・気持ちいい? ちゃんと亮を満足させられている?

「ふあっ・・・んっ・・・」
深い口づけで朦朧とする・・・・・・頭の中まで溶けてしまいそうなキスと愛撫で額に浮いた汗が目に入り、塩分がちょっと染みてくる。
余裕なんかない。
僕と同じ快感を亮にも味わって欲しいだけ。

―――― 好きだよ、好きだよ、好きだよ ―――― 。

「亮っ・・・亮っ・・・あっ」
「・・・つっ・・・」
僕より我慢強いのか、亮はあまり声を上げない。
けれど表情が物語っているその顔は、何て色っぽくて淫らなんだろう。
肌の感触と匂い、胸を伝う汗の味、全部が亮で全部が僕。
繋がっている訳じゃないのにこんなにも一体感を味わえるなんて、不思議な感覚に捕らわれている僕達の息は何処まで上がるんだろう。
濡らされていく指先が無意識に早さを増し、片腕を亮の首に廻すと丁度口が首筋とぶつかった。
噛みたい衝動に駆られるのは本能かな・・・。
「っ・・・延照・・・」
少し痛そうな亮の声が「もっと」と聞こえる。
「ん゛・・・ん゛ん・・・は・・・」
強く吸ってた口を離すと紅く、「N」の鎖のすぐ横がくっきりと痣の様に染まっていた。
僕が付けた「しるし」・・・キスマークを付けた実感がこんなにも嬉しいだなんて思わなかった。
「やったな・・・」
「亮だって・・・あっ・・・やるからおあいこ・・・ふっ・・・んんっ」
有無を言わせず僕の唇を噛んだかと思うと舌が割り込んできて、何度も何度も、それこそ唾液を飲み込む隙なんか与えてくれない程激しいキスと激しい掌で頭の中がショートしそう。
「んっ んっ ふ・・・んんっ」
―――― もうダメ ―――― 。 亮、僕もう ―――― 。

瞬間、頭の中が真っ白になって・・・・・・僕達はキスをしながら達した。


力が抜けて身体を亮に預けると、亮も僕の肩に頭を乗せた。
「すげー・・・こんな風になるとは思わなかった」
息を切らしながら亮が感嘆の言葉を呟く。
「・・・・・・色々経験してるのに・・・・・・?」
不思議そうに訪ねるとプッと吹き出した。
「ばか・・・女相手にこんな事出来ねぇだろ?」
「あ・・・・・・」
そっか・・・そうだよね。
じゃあ、僕が初めてなんだ・・・それって凄く嬉しいかも。
出来ればずっと僕だけが、いい。
「汚れちゃったな・・・」
下を見ると白いトロッとした液体が腹部に散らばっていて。
「2人の・・・混ざってる・・・」
「お前・・・・・・時々凄い事言うよなぁ」
「え・・・・・・そう・・・?」
ぼそっと言った言葉に亮が驚く。 そんなにおかしい事言った?
「俺以外の前で言うなよ」
「い・・・言わないよっ」
亮以外の誰とこんな風になるって言うんだ。

丁寧に拭いてくれた後、「大丈夫か?」って訊かれたから「うん」って答えるとベッドに促されて、ぼふんって音と共に青いベッドの海に飛び込んだ。 ふかふかして自分のベッドとは大違いの肌触り。
するんだ・・・今度こそ本当に繋がるんだ・・・。
1年ぶりに亮と。
高鳴る胸の鼓動が早鐘を打ってバクバクする。

「俺さ・・・」
「うん・・・?」
何を探してるのか、亮は大きなスーツケースを広げてがさごそと漁りながら言ってきた。
「思い違いしてた・・・」
「何・・・を?」
「2人の気持ちが同じなら、延照が俺とやりてぇって思ってくれてればそれでセックスも満足してくれてるモンだと思ってた・・・」
「・・・? して・・・るよ・・・?」
何が言いたいんだろう? 僕は亮と出来るって言うだけで凄く幸せなのに・・・。
「違うんだよ。 ニックにすげー怒られた。 『初めての相手に何もしないで突っ込むなんて延照を愛する資格がない』ってさ・・・延照本当は死ぬほど痛かったんだろ? 気絶するほど辛かったんだろ?」
「それは・・・・・・」
痛かったのは本当だけど・・・。
1つになるのは僕にとって他のどんな事より特別な意味を持っていて、だからこそあの激痛も喜びに変えられたのも本当で。
「でも僕は嬉しかったし・・・・・・」
亮は切なそうな瞳で僕を見ている。
「・・・お前にそんな事まで言わせる俺は馬鹿だな」
「亮・・・?」
ベッドに近づき、ちゅ、と唇に優しく触れて。
「お互いがちゃんと気持ち良くなんなきゃ意味がないだろ?」
「でも・・・・・・」
それは不可能だって身体で知ってしまったから・・・って思っていたら亮がスーツケースから探し当てたらしき物を手にしていたのに気付いた。
「それ・・・・・・?」
「だからさ、これ潤滑剤。 ニックからの餞別」
「潤滑・・・剤・・・? ニックから!?」
亮が照れくさそうに苦笑いをしている。
確か潤滑剤って挿入する時の痛みを和らげる物だってどこかで読んだ気がするけど実際目にするのは勿論初めてで、見た目は何だかチューブに入った整髪料みたいだ。
「俺男同士の知識なんて知らなくて・・・やっぱ持つべきモノはゲイの友人って事か」
「亮ってば」
可笑しくなって2人で吹き出した。
ニックがそんなに気を遣って僕を心配してくれてたなんて・・・ちょっと恥ずかしいけど・・・いつかまた逢いたいな。
ニックもクリスも大人の恋愛をしてるって感じで浮気は理解出来ないけど、凄く羨ましかった。
「これから2人で感じる場所探して行こうな、延照」
感じる場所って・・・僕は亮が触れる場所なら何処でも感じちゃうのに。


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