結局入った店は何故かメキシコ料理の店。
亮が「タコス食いたい」って言い出したから・・・。 もう、だからいつになったら僕にイギリス料理を食べさせてくれるんだよー?
「まあ、いいじゃんか。 最後の日に食わせてやるからさ。」
そうごまかされた。 本当だろうか? 騙されてる気がしてきた。
亮って人をさらっと交わすのが上手いよなぁ。 それとも僕が単純なだけ?
「まずはビールビール。 あ、延照はコップ一杯な。」
「解ってるよ!」
念を押さなくてもいいのにーっ。
来たビールはメキシコのビールで、何か美味しくない。 というか舌がピリッとして痛い。
「あ、このビール唐辛子が入ってるぞ。」
「ええ!?」
どうりで辛いと思った。 何でビールに鷹の爪を入れるんだよ。
「これじゃあ、延照には無理だなー。 ジュースでも頼むか?」
「・・・・・・うん・・・・・・。」
子供扱いされてるみたいで嫌だけど、飲めないものは飲めない。
亮が頼んだタコスも辛いし、チリコンカンも辛い。
僕にはメキシコ料理は合わない事が判明して、唯一食べられたのがチャーハンみたいなのと豆のスープだけ。
ああ、もっと味覚が大人になりたい。 亮は美味しそうにぱくぱくと食べてるし、2人だけなのに疎外感。
「悪かったなぁ。 俺がメキシカン食いたいって言ったばっかりに、お前食うもんあんまないよな。」
「いいよ、別に。 亮が満足ならそれで。」
嘘じゃない。 亮が食べている姿は豪快で好きだから、それでいいんだ。
「明日はちゃんと延照の食いたいもんにするからな。」
「じゃあ、イギリス料理だからね。」
「はは、解ったよ。 でもそんなに美味いもんでもないと思うけどな。」
「それは亮の味覚だろ? それに美味しくなくてもいいの! それはそれで想い出になるから。」
「そういうもんかなー?」
「そういうもん。」
普通、そうだと思うけどな。
食べ終わった亮は一息ついてまたもやタバコを吸い始める。 タバコ吸う人って食事の後に必ず吸うよね。
「そんなに美味しいの?」
「旨いっていうより、癖だな、これは。」
「ふーん。」
「止められねーな、中毒。 延照がタバコ持ってきてくれなかったら俺、タバコ代で破産してたかもな。」
吸わない僕には理解出来ない。 でもタバコを吸わない亮も想像出来ない。僕に逢う前から吸っていて、でも絶対に学校にばれるなんてへまはするはずもなかった。 制服姿で吸う亮は早く大人になりたいと吐き出してる少年の様に見えて、僕はそんな亮を好きになった・・・。
学校では見せない、僕だけが知ってる事が嬉しくて堪らなかった。
ちっぽけな優越感に浸れた瞬間。 あの時の純粋な気持ちは何処に行ってしまったのだろう・・・?
想いが募ればそれだけ欲望だって増えていく。 僕だって人間だ。
もう、見ているだけじゃダメなんだよ、亮・・・・・・。
ホテルに戻ると亮は直ぐにシャワーを浴びに行った。
「ビールの所為で暑くなったから、先にシャワー使わせてくれ。」
1人になった僕は何をやってるか解らないテレビを付けてボーッとそれを見ていた。 バラエティーみたいだけど、ギャグも英語だから笑えない。
それよりも引っかかった何かが僕の中でもがいている。
亮が脱ぎ捨てた服を持って頬に当てると綿の感触が気持ちいい。
「何で亮なんだよ・・・。」
どうして普通に女の子を好きになれなかったんだろう?
そうしたらこんなに苦しくならずに、ちゃんと付き合う事だって出来たかもしれないのに・・・。
堂々とデートしたり、手を繋いだり・・・。 キスだって・・・。
「亮のばかやろう。」
恨みなんかないけど、つい口から出る。
何でイギリスに呼んだんだよ・・・。 そんなことするから僕は・・・僕は・・・。
ガチャリと音がしたから、慌ててシャツを離す。
「あ〜、さっぱりした。 でもやっぱ風呂は日本が一番だよな〜。」
「洗い場と湯船が別になってるのって日本だけなのかな?」
Tシャツとトランクスにバスタオルを首に掛けてベッドにバフンと亮が倒れ込む。
「どうなんだろうな。 でも絶対にその方が気持ちいいと思うけどなー。」
「ユニットバスもやだな、だって誰かがシャワー浴びてるとトイレ行けないんだもん。」
ここもそうだ。 水回りを1カ所に集めた方が経費削減になるからだろうか?
「何? 延照、便所行きたかったのか? そりゃー悪い事した。」
「ち・・・違うよ。 何でそうなるんだよ。」
「隠すなって。 ま、シャワー浴びがてら用も足してこいよー。」
だから違うってば。 でもシャワーは浴びるけど、トイレもついでに行くけどさ。
頭の上から流れるお湯が身体を暖めてくれる。 備え付けのシャンプーはラベンダーの香りが少しきついけど、2日ぶりの風呂で清められる感じがする。
そう言えば昔、家族旅行したときに初めてユニットバスを使って、シャワーカーテンの使い方を知らずに床を水浸しにしたことがあったっけ。
あれはたしか僕がまだ幼稚園の頃、父さんと一緒に入った時だ。 あの時母さんに2人して怒られたんだよなぁ。
懐かしい想い出が今の自分を責めているよう。
もう純粋な自分はいなくなってしまった。 それが成長した証拠なんだろうか?
キュッと蛇口をひねってタオルで水分を取っていく。 鏡に映った身体はもう立派な大人なのに、感情が付いていかない。
バスルームを出ると、テレビが付いたまま、亮はベッドで眠り込んでいた。
胸が音を奏でる。
ふらふらと亮のベッドに腰掛けても起きる気配がなく、寝息をたてている。
「・・・亮・・・。」
そっと、いつもは前髪に隠れているおでこに触れた。 シャワーを浴びた所為か紅くなっている。
今、亮は眠っていて、僕は起きている。
ドクッと血が流れて唇に充満してるように熱い。
「亮・・・。」
もう一度呼んでみたけれど、返事がないから僕は顔を寄せた。
こんな風にしか亮と向き合えない僕は意気地なし。 だけど・・・無防備なその姿を前に平静でいられる訳もなく・・・。
・・・していい・・・? 触れていい・・・?
目が覚めたら平気な顔でいるようにするから・・・。
僕を許して欲しい・・・。
もう少し。 あと3センチ。
唇を重ねたら何かが変わるんだろうか? もっと苦しくなるかもしれない、でも触れられずにいられない。
寝息が掛かると、それだけで僕は感じてしまうんだ。
「キス・・・しちゃうよ・・・。」
あと3ミリ。
「んんっ・・・。」
亮が声を出して寝ている向きを変えようと身体を動かした。
それに僕はハッと我に返って、よろよろと自分のベッドに倒れ込む。
何を・・・何をしようとしてたんだ? 寝ている隙に何をしようと。
自分の愚かな恐怖に震えた。
「あ・・・。」
こんな事したって亮は僕の方を振り向かないのに。
知らない間に流れ出す涙がシーツまで濡らして、口の中がしょっぱい。
どうしたら僕を見てくれる? 死にそうな程好きなのに・・・。
「っ・・・りょっ・・・亮・・・。」
堪らない、こんなのってない。
はけ口のない身体は中から燃えてそのまま焼け死にそうに苦しい。
息が出来なくておかしくなる。
そして僕は・・・最低な自分を思って、亮を・・・亮の全てを想って・・・久し振りに、本当に久し振りに、狂いそうな気持ちでマスターベーションをした・・・・・・。
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