スーツケースとパブ NO.22


〜5日目〜

何かが額に触れて重たい瞼を開いた。
「う・・・ん・・・。」
「おはよう、延照。」
ふわっと唇に軽く触れる。
何・・・? 何が触れてるんだろう?
「おはようのキス。」
「!?」
言われて途端に目が覚めた。 目の前には亮のアップがある。
「あっ・・・りょ・・・亮。」
「ん?」
「あの・・・・・・おはよう・・・。」
そうだ、僕と亮は昨日両想いになったんだ・・・まだ夢の中にいるようで頭がボーっとしている。
「もう一度、モーニングキスしちゃおうっと。」
くすっと笑って亮はキスをしてくる。 しかもディープキス。
「んん・・・。」
カラカラになった喉に流れ込んでくる液体をごくんと飲んだ。
朝から何をするんだ、と思いながらも拒むことなんて出来ない。 だって僕はそれを望んでいるのだから。
でもね、亮、僕も男だからこんな時間にそれはかなりキツイんだってば。
「・・・・・・トイレ行ってくる・・・・・・。」
ベッドからもそっと起き出してドアを開けようとすると、ニヤリと笑みを浮かべている亮が言ってきた。
「どうせだったら俺の前でしちゃえよ。」
「!! ばかっ!」
「あはははー、紅くなっちゃって延照可愛いぞ。」
もうっ! 亮なんて無視! 何で僕が恥ずかしくなることばっか言うんだよ。
想いが通じ合った亮は凄く積極的で、僕はそれに追いつくのに精一杯だ。
あんなに情熱的なキスをするなんて思ってもみなかった。 
いつも冷静な亮が隠し持っていた熱い吐息と唇。 
そっと指で唇をなぞってみる。
ここに一晩で何百回も触れたもの・・・ずっと触れてみたいと憧れていたもの・・・それが現実に叶ってしまった。
こんなことがあっていいのだろうか。
怖いくらいに身体が熱くなっていく。
「・・・っ・・・。」
キスしてるときにそっと見た、それ以上近づくのは不可能な距離の顔。
口の中に入ってきた柔らかく不思議な感触をしている舌。
何もかもが僕を幸福な気持ちにさせると同時に、中に眠っていた疼きを引き出していく。
「りょー・・・。」
無意識に手をそこに持っていった僕は、亮の笑みを頭に描きながらしてしまう。
これはたまに起きる自然現象とは違う。  
だってこんなに1人の人物を浮かべてああいうときってしてなかったし。
僕は結構、性に関して言えば淡泊な方だと思う。
1人で処理するのも2週間に1度とか月に1度とか・・・そんなもんだったのにここ3日で2回もしてる。
僕はどうかしちゃったんだ。 亮が僕を掻きたてるから。
「はぁっ・・・亮・・・・・・っんっ。」
荒い息がトイレに響き渡り登り詰めた欲望が吐き出された。 
僕は亮にどうして欲しい? 抱きしめられたい? 今まで付き合っていた女の子達みたいに抱かれたいのだろうか・・・?
亮も僕も男なわけで・・・だから女の子みたいに抱かれるってことが何を意味するのか知らないわけじゃないけれど・・・その後に自分がどうなってしまうのかが恐ろしい。
だけど・・・1つになりたい、深く繋がりたいって思うのも本当なんだ。
その気持ちはたぶんずっとずっと昔・・・亮を好きになったと同時にあったんだろうけど、気付かない振りをしていた。
それを認めてしまえば男じゃなくなってしまう気がしていたから・・・。
それが今になって、想いが通じ合って一気に膨れあがっていっている気がする。
亮と繋がりたい・・・好きだから・・・したい・・・でも・・・。
はっ! また僕は考えすぎてる、こんなんじゃ駄目だ。 折角両想いになれたんだから。
はぁ〜、と溜息をついて部屋のドアをカチャっと開けようとしたとき、亮が声を上げた。
「うわっ! 延照まだ入ってくんなっ! そこにいろ!」
「え? ・・・!! わ・・・解った。」
慌ててドアを閉めたけど焦っていた亮を見てしまった。
・・・しっ・・・してたっ! 亮がっ亮がっしてるの見ちゃったー!!
かあっと顔が熱くなって頬を押さえた。 ど・・・どうしようどうしよう。
凄くイケナイものを見ちゃった気分だ。
そしてはっと気付く。 亮は僕がしてるところを見てたんだ!
そりゃあ、男だからみんなしてることだけど、でも実際見たり見られたりすると何て恥ずかしいんだろう。
頭の中がぐ〜るぐると廻り目眩を起こして廊下に座り込んだ。
暫くしてドアが開く。
「・・・もう入っていいぞ。」
「・・・うん・・・。」
ばつが悪そうに亮が部屋へ促す。 
「亮・・・今・・・。」
「ああ、そうだよ、オナニーしてたよ。 しょーがねーだろ?」
くるっと振り向いて言い訳する。
「だって・・・お前がやってると思ったら我慢出来なくなっちまったんだから。」
「やって・・・!」
うわーっ、言うなっ! 解ってても言うなーっ!! ばかーっ!
亮は頭をポリポリと掻いて、僕は亮を睨んで・・・2人の顔は真っ赤だ。
「・・・・・・怒った・・・?」
「・・・・・・怒った・・・・・・。」
拗ねて上目遣いに見ると眼差しが照れくさそうにして、何だかとても愛おしくなったから、僕から唇を奪った。
「の・・・延照・・・それ反則・・・んんっ。」
しゃべる隙なんて与えてあげない、僕だってやるときはやるんだからね。
どんなに亮を好きなのか思い知らせてやるんだ。
そんな決意をしても結局は亮に預ける形になってしまう。 だって深く入り込んでくるのは亮の方だから・・・。
腰に手が回ってきてふらついてきた身体をしっかりと支えられる。 どうしてキスだけでこんなに力が入らなくなっちゃうんだろう。 まるで軟体動物にでもなってる気分だ。
「・・・延照ー! もうダメだー!」
「な・・・何・・・?」
何だか鼻息荒いよ、亮。 目がギラついてるよ、亮・・・。
「ちょっと痛いけど我慢な。」
そう言うといきなり首筋を舐められて思いっきり吸われた。
「ひゃっ。」
・・・変な声出しちゃった。 だってだってそんなことされたの初めてなんだもん。
「ー・・・・・・っ。」
痛いけど・・・おかしいんだけど・・・吸われてると変な気分になってしまう。
そのまま身体を預けたくなってくる。
こんなに人を好きになれる僕は幸せなんだ・・・男同士だとか生産的じゃないとかモラルに反してるとか・・・そんなことで気持ちを隠し続けなければいけない人もこの世に沢山いるだろう。
僕も昨日まではそう思っていた。
だけど亮が受け入れてくれたこの想いは絶対に無くせない・・・無くしたくない。
「りょ・・・亮・・・。」
少しだけ歯を立てられて血管からドクッと音が聞こえる。
「あっ・・・。」
千切れるかと思えるような感覚に身体が痺れてくる。 亮にならばこのまま殺されてもかまわない・・・。
「・・・はあっ。 やばかった。 ワリー、痛かったろ?」
「痛かったよ!」
「こうでもしないと襲ってたから許せ、延照。」
「おそっ・・・。」
僕は俯いてしまった。 男だからその気持ち解るけどさ、でも僕が亮を襲うとか考えないの? ・・・考えるわけないか、自分だって考えないのに。
「ごめん・・・だけど俺の気持ちも理解してくれないか? 俺は生身の男だから好きな奴に色んなことしたいと思うのは普通だろ。」
「・・・・・・してるよ・・・・・・。」
してるから余計悩んじゃうんじゃないか。
「あ、お前も俺にキスマーク付けてみる?」
「・・・・・・みる。」
「ええ? マジか?」
思いつきで訊いてきた亮はちょっとびっくりしているけど、僕だって生身の男なんだよ、亮に色々したいんだからね。 ・・・言えないけど。
「だって不公平じゃんか、僕だけなんて。」
「解った。 ほら。」
観念したように首を僕に差し出した。 ゴクッと唾を飲み込んで唇を近づける。
亮の首・・・喉仏が男らしく出ていてちょっと妬いてしまう。
こんなことで震えるなんて僕って安い人間だとも思う。
亮の首筋は柔らかく、強く噛んだら血が飛び散ってしまいそうだ。
それから亮のしたように懸命に真似をしてみる。 どうしたら痕が付くかなんてよく知らないから。
そしたら・・・。
「いやひゃひゃ〜、延照、くすぐったいって!」
と言って大笑いをし始めた。
「えー?」
僕は痕を付ける間もなく肩を掴まれて離された。 酷いよ、一生懸命やったのに。
結局キスマークが付いてるのは僕だけ?
納得いかないぞー。 亮の意地悪〜!  
  
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