スーツケースとパブ NO.27


僕の胸は今にも爆発してしまいそうだ。
今脈を計ったらきっと最高の数字が出るに違いない。
明かりの消えた部屋の中、ベッドの中で亮がシャワーから出て来るのを待っている。
あれから2時間ほどパブにいて家に戻ったのは11時を過ぎていた。
まだほろ酔い加減の亮より先にシャワーを浴びて部屋に戻ると、じっと考え込んでいた亮は言葉少なめに出て行った。
布団にくるまって温度差で曇っている窓を見ていると、どうしていいか解らなくなってくる。
迷いはもうない。
好きだから身体も重ねたい。 キスだけじゃこの疼きは止めることが出来ない。
この感情が汚いものじゃないと亮が教えてくれた、この世の生きとし生けるものが続けてきた神聖な行為。
亮のことだけを好きで良かった・・・。 
カチャリとドアの開く音がして同時に僕の血も量が増したように身体中駆けめぐっていく。
「・・・延照・・・。」
呼ばれてそっと見ると、亮は腰にバスタオルを巻いただけの姿。
・・・不思議だ・・・。
亮の裸なんてプールの授業や修学旅行のお風呂で見慣れてる筈なのに・・・どうしてこんなにドキドキするんだろう・・・?
ベッドに近づいてくる適度に筋肉の付いた身体。
「・・・怖い・・・?」
僕の髪の毛を掌で優しく触れて訊いてくる。
「・・・怖くないって言ったら・・・嘘になるけど・・・。」
「震えてる。」
情けないけど、亮の言うとおりだ。 ガタガタと身体が震えだしてきて、それを振り払うかのように僕は手を伸ばして亮を引き寄せた。
裸の亮はとても熱くて、その体温に安心する。
「ん・・・。」
どちらからともなく口吻を交わしてそのままベッドに倒れ込んだ。
「延照・・・脱いで。」
まるで魔法の呪文に掛かったように僕は着ている物を全て脱ぎ捨てた。
「・・・恥ずかしい・・・。」
「そんなことないって。」
そう言ってぴったりと身体を密着させてくる。
この心臓の音は僕のものか亮のものか。
「ずっと・・・延照とこうしたかった・・・。 聞こえるか? こんなにバクバクしてるんだぜ。」
「・・・うん・・・。」
同じなんだね、亮も僕と一緒なんだ。
「愛してる・・・延照。」
かあっとした。 「好き」とも微妙に違う「愛してる」・・・なんて甘い響きなんだろう・・・。
瞳に吸い込まれてしまう・・・亮・・・僕も・・・。
「・・・僕も・・・愛・・・」
・・・言えない・・・恥ずかしすぎる。
「無理すんなって。」
くすっと笑われて余計に紅くなってきちゃう。
「解ってるから。 俺が変わりに耳にタコが出来るほど言ってやる。 愛してる・・・もう待たない・・・俺は5年も待ったんだから、もう我慢もしない。」
「亮・・・・・・あ・・・・・・」
朝と同じ場所を吸われて思わず声が出てしまった。
優しく肌を撫でる亮の指に僕の身体が変化する・・・こんな自分を今まで知らなかった・・・想像も出来なかった。
その唇が首から下にゆっくりと移動するたびに僕は声を上げ、嬉しさと恥ずかしさと、そして未知の快感に頭がおかしくなりそうになる。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・・あっ・・・・・・」  
苦しい・・・まるでマラソンをしてるかのように息が上がってしまう。
亮の汗と僕の汗が混ざり合いシーツが濡れていた。
「りょ・・・亮・・・。」
きっと亮は女の子と何度もこんなことしたに違いない・・・ねぇ、男の僕に亮は感じてくれてる・・・?
「・・・ばかだな・・・そんなこと今考えるなよ・・・言ったろ? みんなお前の変わりだったってさ。」
「でも・・・」
「感じてるかって、そんなのここ見れば一目瞭然じゃねーか。」
人差し指のその先にある亮のそれ。
「わっ!」
「延照だからこんなになってるんだぞ。」
「〜〜〜・・・。」
「女を抱いててもいつも延照を想像してた・・・お前ならばどんな表情をするのかとか、どんな声を出すんだろうとかさ・・・。」
声・・・そういえば夢中で気付かなかったけど・・・。
「・・・ニックは・・・?」
「は? ニック? ニックとやったことなんかねーぞ。」
「ちがっ」
・・・そうだよね・・・今の会話じゃそう言われてもしょうがない。
「そ・・・そうじゃなくて・・・ニックは部屋にいるの?」
だって・・・だって・・・ここってそんなに防音がきいてると思えないし、そしたらニックに聞こえちゃう。
ははー、と亮も僕の考えてることが解ったみたいでウィンクしながら言った。
「俺が延照の色っぽい声を他の奴に聴かせるわけないだろ? あいつには今晩相手の家に泊まりに行ってもらった。」
「そ・・・そう・・・。」
そうだった・・・亮は抜け目がない。
「あいつが連れ込むとすげーんだぜ。 もう嬌声上げまくりで眠れないっての。」
「へ・・・へえ・・・。」
なんて答えていいのやら・・・。
「今この家にいるのは2人だけだから延照も思いっきり声出していいぞ。」
「なっ・・・!」
そんなこと言われたら逆に意識しちゃって出せなくなっちゃうじゃないかっ。
「俺だけに聴かせて欲しい・・・延照の声。 離れていてもすぐに思い出せるように聴かせて。」
「・・・卑怯だ・・・。」
「そ、俺はお前に関しては昔から卑怯者なの。」
へへ、と笑ってキスする。
その舌が僕を翻弄していき、何ももう考えられない。
「・・・んんっ・・・」
口の中で絡み合っているそれはとてもとても甘くて蜜を舐めているよう。
「はふ・・・・・・あっ・・・・」
くらくらする・・・怖いという感情はもうどこか遠くの方へ飛んでいった。
それよりも亮の表情が指が、知らない自分を引きずり出す。
もっと出して・・・亮だけに知られるならば何も恐れないから・・・亮しか知らない僕を出して・・・。
「ああっ・・・」
・・・僕も21歳の男だ。 それなりにそういう雑誌だって見ないわけじゃない。 だから口ですることがあるのも知ってる。
・・・でもまさか自分がその立場になるとは思いもしなかった・・・目の前で亮が僕に雑誌と同じことをしてる・・・。
「や・・・りょー・・・はぁ・・・あっ・・・」
恥ずかしさのあまり両手で亮の頭を掴んで止めさせようとしたけれど、そこから口を離してはくれない。
足も力で押さえつけられていて、僕にはもうどうすることも出来なかった。
その間にも亮のその唇は欲望を吐かせようと攻めまくっている。
「ダメ・・・ダメだよ・・・っつっ・・・」
どうしよう・・・このままじゃ亮の口の中に出してしまう・・・。
「離して・・・亮・・・出ちゃうからっ・・・亮!」
「出せよ・・・いいから・・・。」
「良くないっ・・・・・・ああっ」
・・・我慢しようと思ったけど無理だった・・・僕は亮の口の中に放ってしまった。
「はぁ・・・」
ふうっと力が抜ける。 途端にどばっと涙が溢れてきた。
「だから・・・ダメだって・・・言ったのに・・・」
ごくんと飲み込んでしまった・・・ありえないよ。
「どうして泣くんだよ? 俺がそうしたかったからいいんだよ。」
涙でぐちゃぐちゃになった僕に微笑みをくれる亮はどうしてこんなに優しいんだろう? 気持ち悪くないの・・・?
「お前のだからだ。 気持ち悪かったらこんなことしない。」
「・・・・・・僕もする・・・・・・。」
「ええ? そんな無理すんなって。」
「無理なんかしてない。」
亮がこんなことまでしてくれたのに、考えたら僕は身体を預けっぱなしで何もしてない。
「それよりさ・・・俺もう限界・・・」
「え・・・?」
もしかして・・・それって・・・そういう意味だよね・・・?
「・・・いいか・・・?」
僕は俯きながらこくんと頷いた。 亮と・・・1つになれる・・・。 そう思うと嬉しさと共に怖さが蘇ってくる。
その時、僕はどうなってしまうんだろう? 
僕の身体をごろんと寝かせて足を開かせ、そこに膝で立った。
目を瞑って亮を待っていると、身体が恥ずかしさと怖さで震えてくる。
「なるべく痛くないようにするから・・・。」
そんなセリフも心臓の音が強く響いて遠くで聞こえる気がした。 
亮は自分の指をペロッと舐めてそれを僕の中へ入れてくる。
「痛っ・・・!」
誰も、自分さえ触れたことのない場所を亮の指がまさぐっていて・・・それが痛いと同時に嬉しくもあって・・・複雑な感情が自分の中で絡み合って頭の中はパニックを引き起こしていた。
「亮・・・亮・・・好き・・・愛してる・・・」
今言わなきゃダメだと思った。 どうしても繋がる前にちゃんと言いたかった。
亮はそんな僕にひたすら暖かな笑みをくれている。
泣けて仕方がない・・・亮の目も少し潤んでるね。
指をそっと引き抜かれてそれが当たると緊張してしまう。 今度は本当に亮とするんだ・・・。
「入れるぞ・・・。」
そう言ってちょっとずつ僕の中に入ってきた。
「!・・・痛いっ・・・痛い・・・」
「力・・・抜いて・・・」
そうしたいけど・・・どうしても抜けない・・・変な力が入ってしまう。
「延照・・・我慢出来るか・・・?」
「解んないけど・・・でも・・・亮と今してるよね・・・?」
「ああ、してる。 延照と1つになってる。」
「うん・・・うん・・・」
本当は死ぬほど痛いし、気持ちいいかと訊かれたらそんな快感は微塵もない。 だけどそれよりも繋がれたことが感動的で嬉しくて堪らないんだ。
「動いて大丈夫か・・・?」
「ん・・・」
ゆっくり腰を動かしてなるべく僕がつらくないようにしてくれている。
「亮・・・いいよ、もっとしたいようにして・・・。」
「けど・・・」
「僕がそうして欲しい・・・亮、好きって言って。」
「・・・好きだよ・・・ずっとお前が好きだ・・・今までも、これからも・・・。」
「うん・・・。」
少しずつ亮の動きが早くなっていき、僕はシーツをぎゅっと掴み、唇を噛んで耐えた。
「んんっ・・・亮・・・亮・・・あっ・・・あー・・・」
亮が僕の中にいる。 ・・・こんなに幸せなことってない。
ねぇ、今の亮の表情、凄くやらしくてセクシーで格好いいよ・・・。
その顔、心と身体に刻み込んで一生忘れない・・・。


そして僕の頭の中は真っ白になっていき、亮と繋がったまま失神した。
   

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