〜6日目〜
「・・・・・・ん・・・・・・。」
身体のだるさで目が覚めたけれど、とても起きる気がしなくなるように重い。
「・・・亮・・・?」
横を見るとまだ寝息を立てて、部屋の暑さで顔が紅く染まっている。
起きあがろうとして身体を起こした瞬間、腰から背中に掛けて鈍い痛みが走った。
「痛っ!」
思わず声が出たけれど、それは辛い痛みではなく亮と1つになれた証拠なんだ。
僕が気を失って目を開けると亮の心配そうな顔が見えた。
「延照・・・大丈夫か・・・?」
失神したと気付き、僕は胸が締め付けられる思いで訊いた。
「・・・出来た・・・? 亮は出来た・・・?」
「ああ・・・したよ、お前の中で出来た。」
「良かった・・・。」
「バカ、自分の心配しろよ。」
僕の身体なんかより亮が僕の中でちゃんと出来たかの方が心配だった。
だから首を横に振って亮の言葉を否定する。
「お前ってやつは・・・。」
「だって・・・もし出来なかったらって・・・そしたらやっぱり亮は呆れちゃうかもって・・・。」
「そんなわけないだろう?」
「ね・・・その・・・気持ち良かった・・・?」
目を丸くして驚いてる亮の顔。 そんなに変なこと言った・・・?
「ったく・・・」と苦笑いをしている。
「気持ち良かったよ、延照の中。 ちょっときつかったけどな。」
そう言ってウィンクをする。
「ご・・・ごめん・・・。 女の子じゃなくて・・・。」
僕が女の子だったらもっとちゃんと出来たに違いないんだよね・・・。
「そんなの関係ないだろ? 俺は「お前」だから好きになった、だからしたかったんだぞ。 そんなこと、もう言うなよ。」
「う・・・うん・・・。」
そうして優しく僕を抱きしめてくれた。 この腕は何て暖かいんだろう、なんて安心出来るのだろう・・・。
「・・・あ・・・延照起きてたのか・・・?」
「うん・・・おはよう、今日は僕の方が早起きだね。」
ずっと見ていたいと思った亮が目を開けて笑い掛けてきて、そしておはようのキスを1つした。
「お前、大丈夫だったか?」
亮は昔から僕に甘い。 だけど今は砂糖菓子のようにもっと甘く囁き掛けてくるから僕はそれに溶けてしまいそうになる。
「大丈夫・・・って言いたいところだけど・・・まだ起きあがれないかも。」
「ワリー、俺、痛くしないって言ったのにな・・・。」
「違うよ、僕がしてって言ったんだから、亮が謝る必要なんかどこにもない。」
そうなんだ、これは僕が長い間望んでいたこと。
・・・あのまま死んでも悔いは残らないだろうと思った・・・だけど今日は昨日の僕よりも欲張りになっている。
「延照・・・・・・襲っちゃうぞー!」
「わっ!」
いきなり亮が掛け布団を剥いでのし掛かってきた。
ボスンと音がして上にあった布団が下に落ちて、素っ裸の2人が出現。
「やだ〜! くすぐったいよ、亮!」
僕の脇腹とか肋骨の辺りを指でこちょこちょするから笑いが止まらなくなってきた。
「もうー!」
動きが止まったのに気付き目を開けると、上から僕を見下ろす真剣な眼差しがあって少し戸惑ってしまった。
「・・・・・・亮・・・・・・?」
「延照・・・ありがとうな・・・もしかしたら俺はお前に大変なことしでかしたのかもしれないって・・・怖くなっちまった・・・お前の方が数倍も怖かった筈なのにな・・・。」
「亮・・・。」
・・・そうか・・・亮もあの時、本当は怖かったんだ・・・。 いつも余裕があるように見えるからそんなこと思いもしなかった。
「僕はもう怖くないよ。 亮がいてくれればそれで安心出来るから・・・だから大丈夫。」
亮は僕の額を撫でて言う。
「本当はお前の方が俺の何倍も強いよ・・・。」
「そんなこと・・・。」
僕を見つめる優しい瞳、朝になってちょっぴりヒゲが生えてきてる男らしい顔。
「愛してる、延照。」
「僕も愛してる・・・。」
照れることなく言えた。 変なの、全然恥ずかしくないや。 当たり前のことを言ってるだけなんだよね。
そうして僕らはそのままぎゅっと抱き合った。
いつまでもいつまでもこうしていたい・・・どんなキャンディーよりも亮のキスの方が甘く、舌で転がされて僕はとろーんとなってしまう。
今日の昼で本当に帰らなくちゃならないのにまだ全然実感が沸かない。
たぶん今が幸せすぎて考える隙間がないんだ。
だったら考えないようにしよう・・・最後の最後まで考えないようにすれば哀しまなくてすむかもしれない。
僕は昨日、この胸に抱かれた・・・熱くて灼けてしまいそうになり、幸福感と痛みでスパークした。
相手が亮じゃなければこんなことにはきっとならない。
こんなに自分をさらけ出すなんて亮じゃなきゃ出来ない。
大好き、愛してる・・・でも言葉じゃ伝えられないこの想いは身体で確かめ合うしか手立てが無いのかもしれない。
「あ、そうだ。」
「え? 何?」
ふいに亮が思い出したように立ち上がった。
「俺もお前に土産があるんだー。」
と嬉しそうに裸のままベッドを抜け出し鞄の中をゴソゴソと探り始めた。
僕にお土産?
唐突にそんなこと言われたからそれがなんなのか考える暇がなく、ボーッと亮の行動を見ていた。
亮は小さなビニール袋を取りだして僕の前に差し出した。
「これやるよ、あ、2つ入ってるけど1個俺のな。」
「う・・・うん・・・ありがと・・・。」
渡された袋の上をなぞるとシャラシャラと音が聞こえる。
「開けてみな。」
「うん。」
止めてあるセロハンテープを不器用に外して、中身を掌に出した。
「!! ・・・・・・これ・・・・・・。」
「もっと早く渡したかったんだけどさ・・・何か照れくさくて。」
僕の手の中で銀色に2つ光ってる。
亮がくれたお土産はシルバーのペンダントだった。
「お前のは「R」の方だからな。 俺のは「N」。」
そう言われて手に取って見ると、チェーンに小さな「R」の形をした飾りがあった。
「・・・この「R」って・・・亮の「R」?」
僕が訊くと少し顔を赤らめた亮が「決まってんだろ。」と照れながら言う。
じゃあ、「N」って延照の「N」なんだよね・・・。
「どうしたの? これ。」
「ニックが今付き合ってるやつがアクセサリーデザイナーでさ、そいつに頼んで作って貰った。」
そう言われてみれば手作りっぽい。
「ほら、付けてやるから後ろ向け。」
「うん・・・。」
言われるままに後ろを向くと、首筋に亮の指が動くのを感じて少しくすぐったい。
「指輪にしようかとも思ったんだけどさ、それじゃちょっと先走りすぎだよなー、とか思ってこっちにしたんだ。 それに延照はアクセサリーってイメージないしな。 これだったら服に隠れるしいいかな〜って。」
僕はぼけっとしながら付けて貰うのを待っていた。
「よし、出来た。 俺のも付けてくれるだろ?」
亮は言いながら今度は後ろを向いて僕が付けるのを待っている。
ペンダントなんて慣れていない僕はあたふたとしながら亮の首にそれを付けた。
「サンキュー。 ・・・どうした?」
「え? 何が?」
「何かぼーっとしてるから。」
「そ・・・そう・・・?」
「これで離ればなれになってもいつも一緒だぞ。」
「・・・・・・。」
言われた途端に僕の頬を水分が伝った。
「な・・・何で泣いてるんだ?」
「だって・・・だって・・・。」
「離ればなれ」と言われて忘れようとしてた現実が舞い戻ってきて、それと同時に亮がここまでしてくれたことがめちゃくちゃ嬉しかった。
だからこの涙は哀しいからか嬉しいからか区別がつかない。
・・・きっと両方だ。
「・・・・・・たくない・・・・・・」
「え?」
「帰りたくない・・・亮と一緒にいたい・・・。」
「延照・・・。」
言っちゃいけない・・・それは解ってる。 だけど口に出さずにいられなかったんだ。
これから1年、側に亮がいない・・・それはこの1年とは比べ物にならないくらい辛い。 友達に会えないのと恋人に会えないのはきっと全然違う。
亮は泣きそうな、切なそうな顔をして僕を抱きしめた。
「俺だって・・・俺だって本当はこのまま帰したくねーよ。 俺がバカだったんだ。 留学なんかするから・・・。 ごめんな・・・ごめん。」
亮・・・泣いてるの? 僕の為に泣いてくれてるの・・・?
「亮・・・。」
僕はぎゅっと亮の頭を抱えて、そのまま暫く2人とも動けなくなった。
亮の所為じゃない・・・それも解ってるよ。 僕が我が儘を言うから亮まで泣いちゃった。
もっと強くならなくっちゃ。
離れててもちゃんと1人で立っていられるように・・・。
強くなりたい・・・今度逢うときはもっと男らしくなっていたい。
だから・・・だから・・・。
「・・・亮・・・もう、言わない・・・ごめんね。」
「延照・・・。」
「大丈夫、離れててもきっと強くなれる。 だって亮がここにいるんだよね?」
僕は亮が付けてくれた「R」の文字を指でなぞった。
「・・・お前はやっぱり強いよ。」
「亮が強くしてくれたんだ。」
亮がいなかったら本気で人を好きになることだってなかったかもしれない。 こんなに幸せを感じることだって出来なかったかもしれない。
亮がいるから僕は強くなれる、そんな気がする。
僕らは唇を寄せ合いキスをした。
その味は甘いけれど2人の涙でしょっぱくて、切ない切ない味がした。
「・・・亮、お腹空いちゃった。 家の前にあるお店に連れて行ってよ。 この前約束したとこ。」
「そうだな。 俺も腹減った。」
そして2人して顔を見合わせて吹き出した。
「どんな時でも生きてりゃ腹は減るんだよな〜。 色気ねーのな。」
「生きてるからキスも出来る。」
「んじゃ、食う前にもう1回。」
ちゅ。
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