スーツケースとパブ NO.29


家を出て通りを渡るとすぐ目の前に食べ物屋があってそこに入った。
日本でいうと定食屋みたいなところらしいけれど、ファストフード店にしか僕には見えない。 でもイギリスの朝食だからこんな感じなのかな?
客は何故かおじさんが多い。 どうしてだろう? と店員を見るとミニスカートを履いた若い女性が笑顔を振りまいていた。
こっちの人はとにかくスタイルがいい。 大人っぽい顔をしてるけど、もしかしたら僕なんかよりずっと年下かもしれない。
「何見とれてるんだよー?」
亮がじと〜っと僕を睨んでいる。
「見とれてないよー。」
「嘘だ、俺をごまかそうってもそうはいかない。」
「何バカなこと言ってるんだよ、もう。 でも綺麗だよね。」
「まあなぁ。 でもさ、イギリス女性ってスカートは普段あんまり履かないんだぜ。」
「そうなんだぁ。 スタイルいいのに勿体ないよね。」
意外だ。 でもその後の亮のセリフの方がもっと意外だった。
「あんまりにも女に色気がないってことでゲイに走っちゃうやつが結構いるらしいぞ。」 
ニィッと笑ってる。 それって本当かなぁ? こういうときの亮はどうも眉唾っぽい。
「嘘っぽ〜い。」
「俺の言うこと信じねーのかぁ?」
「信じる信じる。」  
「ちぇ。 いいけどさー。 延照何にする?」
メニューを見せられたけど、よく解らなかったから亮にまかせることにした。
空いてる席に座ると、おじさん達がじろっと僕を見た気がしてちょっと肩身が狭い。
外国人てそれだけで迫力が日本人とは違う気がするしヒゲとかあると更にそれが増す。
「よっと。 ほら、お前の分。」
「ありがと。 あ、これってコッツウォルズのホテルで食べたのと同じ?」
「ああ、そうだな、似てるかもな。」
「亮のは?」
見るとハンバーガーが乗っていた。
「朝からよくそんなに食べられるよなー。」
「あのなー、こっちではこれが普通なんだよ、周りもそうだろう?」
言われてキョロキョロ見ると、本当におじさん達のお皿には大きなハンバーガーやらホットサンドらしき物が乗っていた。
「みんな凄い・・・。」
「延照が少食なんだよ、ほら、食え。」
「いただきます。」
パンを口に頬張りながら、それでも日本にいるときよりは食べてるのにーって思った。
亮が食べているのはどうやらハンバーグじゃなくて、目玉焼きと野菜とベーコンが挟んである、ちょっとヘルシー向けのパンだった。
「あと5時間か・・・。」
ぼそっと亮が呟く。 そう・・・あと5時間後には僕が乗る飛行機が飛び立つ。
「・・・ん・・・そうだね・・・。」
胸が騒ぐ。 でも大丈夫、離れても心が亮と繋がっている・・・。
「ここに来て良かった・・・。 亮が僕を呼んでくれて嬉しかったよ。」
「俺も延照が来てくれてすっげー嬉しかったぜ。」
「うん。」
こつんと額を合わせる。
亮、僕達は随分回り道してきたよね。 でもそれはきっと無駄な時間じゃないと思うんだ。
だって友達に5年間もなれて、そして恋人になれたんだよ?
それって考えようによっては贅沢な時間じゃない?
僕らの未来がどうなるかなんて誰にも予想出来なくて・・・だけど必ず横には亮がいてくれる。 それだけは確信する。
だから・・・たった1年間離れてるだけでダメになるようじゃ、これから先いくら一緒にいたってダメになる。
きっとそれをこれから僕らは試されるんだ。
「あと1年したらもっと自立してる。 約束するよ、亮。」
「俺もこっちできっちり勉強してもっと延照が自慢出来るような人間になってる。」
「・・・今も充分自慢出来るけどね。」
「ばーか・・・。」
くすっと笑い合って両手を絡ませる。 こんな風に外で出来るのも最後かもしれない。
さすがに日本じゃ出来ないからね・・・。
亮の手、僕より少し大きくて包まれてる気分だ。 とても安心感のある掌。 
だけど僕も男だからちょっと羨ましくて妬ける。
1年後には亮が驚くくらい大人になってればいいのになぁ・・・。



家に戻ると人の気配がした。
笑い声が聞こえてきてキッチンを覗くとニックともう1人、金髪の男の人が椅子に座っている。
「Nick, Chris. morning.」
「Oh! Ryo, good morning.」
「Good morning, Ryo and・・・?」
「Nobuteru.」
うわわー、英語ばっかり! 日本に帰ったら取り敢えずもっと英語覚えよう。 と僕が思っていると、金髪の青年は僕に微笑んだ。
ドキッとしてしまった・・・何て言うか・・・とても美しい人だったから。
「Hi! Nobu.」
え? ぼ・・・僕・・・?
「延照、ペンダント作ってくれたニックの彼氏のクリス。」
「あ・・・あの・・・Hi!」
そっかー、これがニックの相手かぁ・・・夜になるとこの人が嬌声上げるんだぁ・・・はっ! 何想像してるんだよ! 僕のバカッ!
「何落ち込んでるんだ?」
「・・・何でもない・・・はは・・・。」
これはさすがに亮にも言えない。 僕って思ったよりスケベなのかな・・・?
暫くして気付いたんだけど、あれ? ニックがいても平気だ。 何で・・・?
じっとニックを見ていたら、今度はニックがそれに気付いてニヤッと笑って言ってきた。
「Nobu, Congratulations!」
亮は「あ、ニックのバカタレ。」と言っている。
ん? コングラッチュレーションて・・・おめでとうって意味だよね・・・?
それってどういう・・・。
そこまで考えてハッ!とした。
「・・・亮・・・夕べニックに何て言って他のとこに泊まってもらったんだ・・・?」
「へ?」
「だから・・・ニックに何て言ったの・・・?」
「いや・・・だから・・・延照の色っぽい声を聞かせたくないって・・・。」
「まさか・・・亮! 本当にそう言ったの!?」
僕がじ〜っと見ると亮は慌てて目を逸らした。
「亮! 答えろ!!」
「悪かったよ〜、怒るなよ〜。」
手を合わせて僕にごめんのポーズをする。
し・・・信じられない!! バカッ!! 
「亮のバカ!!!」
と言うことは昨日僕らがしたことをニックが知ってるってことじゃないかー!!!
「だって〜、自慢したかったんだも〜ん。」
「〜〜〜〜〜!!!」
ほんっと亮ってずるい! そんなこと言われたら恥ずかしいのに嬉しくなっちゃうじゃないかっ。



「これで全部か?」
「・・・うん。」
「延照く〜ん、まだ怒ってる?」
セリフとは裏腹に楽しそうな亮の声。 ちょっとは反省しろ〜!
「・・・・・・。」
「こっち向けって。」
僕が返事をする前に亮の両手が僕の頬をがっちり掴んだ。
「俺はお前のこと、ニックでも誰にでも自慢してやるからな。 それはお前にとって嫌なことか・・・?」
「そんなんじゃないけど・・・だけどあんなの不意打ちだ。」
「俺は延照の驚いた顔が好きなんだ。」
不敵な笑みを亮は浮かべている。
こうしてまた僕は亮に溺れていってしまうんだ・・・。 その瞳に見つめられるとまるで抵抗出来ない、どうにでもして欲しくなる。
頭を撫でられ、頬にキスされ、僕の心が亮で満たされていく。
亮は僕に甘い・・・そして僕に心地良い意地悪まで与える。
「延照・・・。」
亮が僕の名前を呼ぶ、それだけで感じてしまう。
亮はそんな僕を知ってる・・・?



1階に降りて行くとニックとその彼氏のクリスも僕を見送ろうと待っていてくれた。
「じゃ、延照を送ってくるから。」
「ああ、気を付けて。」
「おお、サンキュー。 あ、それとクリス。」
「何?」
「ペンダント、ありがとうな。」
「亮の為ならお安いご用だよ。」
って感じのことを3人で言い合っていた・・・と思う。(違ってたらごめんね。)
そしてニックが僕の頬にキスをした。
どうしてだろう? この前キスされた時はあんなに嫌だったのに、今は別になんともない。
もしかしてそれって僕が亮と想いを遂げたからなのだろうか?
ごめんなさい、ニック。 僕が大人だったらもっと話しが出来たかもしれない、仲良くなれたかもしれないんだ。
「あの・・・ニック・・・Sorry・・・.」
それに対してニコッと笑って「気にするなよ。」と言ってくれてるようだった。
今度もし逢えたら、僕はきっと余裕のある大人になってるから・・・。
それからクリスには僕から握手を求めた。 
「え、と・・・ペンダント・・・Thank you.」
微笑まれて通じたような気がする。 それにしても綺麗な人だなぁ。 まるで映画にでも出てきそう。 どこが「可愛い感じ」なんだろう?
「可愛いのはニックの遊び相手。」
エスパー亮が僕の疑問に答えた。 もしかして僕って顔に出やすいんだろうか?
それにしても・・・ニックってばこんな綺麗な恋人がいて浮気なんかしちゃってるの? 
「ま、それでもこいつら上手くやってるからそれでいいってこと。 あ、でも俺は浮気なんかしねーから安心して待ってろよ。」
「・・・・・・。」

僕らは2人に見送られ、もしかしたらもう2度と来ないかもしれない家を後にした。
でも僕は決してこの場所を忘れない。
ここで僕達は初めてキスをした。 結ばれた。
一生の想い出になるであろうあの部屋。 
・・・何年か経って2人で来られたらいいね、亮。
     

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