スーツケースとパブ NO.6



「昼飯、何処がいいかなー。」
ロンドン塔を出て直ぐに亮がお昼ご飯の場所を悩んでいた。
「何処でもいいよ。」
僕がそう言うと、
「じゃ、あそこでいいか。」
って言うから何処に行くのかと思えばマクドナルドに入っていった。
ロンドンにはマックが至る所に点在しているらしい。 何処の国でもマックは健在。
なんでもロンドンには公衆トイレが余りなくて、その為にファーストフードにトイレをしに来るのが当たり前になっているんだって。
「この後は何処に行くの?」
僕はハンバーガーを頬張りながら聞いた。
「セント・ポール大聖堂に行こうかと思ってる。 こっからそんなに遠くないし、俺が結構気に入ってるとこだから。」
「へー。」
亮が気に入ってる場所なんだ。 楽しみ。
「どんなとこ?」
「凄いんだぜ、超!ゴージャスって感じで。」
目を輝かせて話す亮はとっても・・・格好いい。 いつまでも見ていたい、そんな感じ。 高校の頃から変わらない、その笑顔が僕を和ませると同時に悩ませる。
食べ終わってマックを出ると、亮が地下鉄に入っていった。 
切符売り場に行くと、
「ちょっと待ってな。」
と言って亮が切符を買っている。 ここでは僕は亮がいないと切符すら買えない。
「ほら、これなくすなよ。」
手渡されたのは切符じゃなくてカードみたいだった。
「これ・・・。」
「ワンデーパス。 これで地下鉄とバス乗り放題なんだぜ。」
「ありがと。」
へー、これで地下鉄とバス、両方使えるんだー。 便利なんだなぁ。
乗って最初に驚いたのは、凄く狭いこと。 
ロンドンの地下鉄は「チューブ」と言って日本の地下鉄よりももっとずっと狭くて小さい。 その名の通り、トンネルが管の様に丸くなっていて、それに合わせるように列車は天井が低くて角が丸くなっている。
日本人よりイギリス人の方が背が高いのによく天井にぶつからないなぁ。
座席の数も少ない。 僕は乗るまでもっと綺麗だと思っていたけど、新聞やら雑誌が散らばっていて想像していたよりもなんというか・・・汚い。
一駅で乗り換えだった。
降りて次の電車までのエスカレーターで更にびっくり。
    
めちゃめちゃ長い、というか深い。 亮に訊いたら、「何処も乗り換えだとこんなもん。」なんだそう。
ロンドンの地下鉄って地底人が住んでるとこまで潜っていきそう。って言ったら亮に笑われた。
「延照って妙な想像力があるよなぁ。」
言われて顔が赤くなる。 いつも思うのは、僕って亮に踊らされてる気がするなぁって事。 亮の言動1つ1つが僕を嬉しくさせたり哀しくさせたりする。
それってやっぱり僕が亮に恋をしているからなんだろうか。
人は誰でも恋をすると臆病になるって言うけど、僕のは臆病の域を超えている。 
だって亮も僕も男だから・・・実ることのない恋なのに諦められない。 なのにこの想いを伝えることさえ出来ない。 
胸の奥がもやもやする。
ニックみたいになれればいいのだろうけど、でも僕が好きなのは亮であって、決して男が好きなわけじゃないと思うんだ。
好きになったのが亮しかいないからよく解らないけれど。
次の電車を待っていると、カップルがいて、2人ともスタイルが良くて羨ましいなぁ、って思っていたら、2人がいきなりキスしだした。
目の前でキスしているカップルを見ている僕はどうしていいか解らずに隣にいる亮に助けを求める。
「気にすんなってば、こんなの日常茶飯事なんだぜ。 ほら、あっちでもやってるだろ?」
言われて左の方を見たらそっちでもカップルがキスしていた。
どうして公衆の面前で出来るのか僕には理解不能。
「は・・・恥ずかしくないのかな?」
「はは、そりゃ2人の世界作っちゃってるんだから気になんないんだろ。 ま、延照には刺激が強すぎるか。」
「亮も・・・」
「ん?」
「・・・何でもない・・・。」
「・・・・・・。」
亮もそうなの?って訊こうとして口を噤んだ。 「そうだよ。」って言われたらきっと落ち込んじゃう。 誰かとキスする亮なんて見たくないから。
亮は今まで何人の女の子とキスしたんだろう、何人とそれ以上のことしたんだろう・・・。
そして僕は今までも、そしてこれからもそれを見続けるしかないんだ。
「延照、来たぞ。」
「あ、うん・・・。」
だめだ、こんな事ばっかり考えるからネガティブになっちゃうんだ。 今は亮を独占してるじゃないか。 せめて亮の前では笑っていなくちゃ。
電車がきて、やっとカップル達は唇を離して乗り込んだ。 その間、約5分。 永い、いや、でももしかしたらそれって普通なのかもしれない。
「そんなに気になるのかー?」
「え・・・、べ・・・別に。」
「ふ〜ん・・・。」
何?「ふ〜ん」てっ。 やっぱり亮は僕をからかっている。 そりゃ亮はもててもててこんなの慣れているだろうけどさっ。
「次で降りるからな。」
「え? また一駅?」
「そ、近いだろう?」
「うん。」
乗り換え1回で一駅ずつ。 そんなに近いんだ、ロンドンは見るところが凝縮されているんだなぁ。

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